やってしまった。いつかやらかすんじゃないかと思ってはいたけど、こんなに早くこの日が来てしまうとは。後悔してもしきれない。傷を負った足よりも胸が痛かった。

「苗字、大丈夫?肩貸そうか?」

「何とか歩けてるから平気」

「あ、夏油さん!」

灰原くんが呼び止めた人物の名前を頭で理解する前に、本能がヤバいと警告を発していた。叶うことなら一目散に逃げ出したいところだが、任務中のミスで痛めた足のせいで動けない。
その間にも灰原くんと夏油先輩の間で会話が交わされていく。

「家入さん知りませんか?苗字が怪我しちゃって」

「怪我?」

夏油先輩が柳眉をひそめるのを見て、私は咄嗟に回れ右をした。

「はい、確保」

「えっ、あっ」

しかし、後ろにはいつの間に移動したのか五条先輩がいて、私は呆気なく捕まってしまった。急に視界がぐんと高くなり、五条先輩に抱き上げられたのだと知って青ざめる。これは非常にまずい。

「なまえは私達が連れて行くから、灰原は報告を頼んだよ」

「わかりました!」

待って、行かないで!そう言いたいのに声が出ない。五条先輩と夏油先輩から発せられる圧が凄くて。

「やっぱ駄目だわ、こいつ。危なっかしくて見てらんねー。例の計画実行しようぜ」

「私もそう思っていたところだよ。ということは、あれだね」

「だな。適当に近場のマンション見繕っておくわ。こいつが勝手に外に出られないように多少手を入れる必要があるし、ちょっと時間かかるかもだけど」

「とりあえずは私と悟の部屋で交替で見張ることにしよう。なまえは怪我の後遺症で任務には出られないと上に納得させないといけないな」

「そっちはお前に任せる。一応、五条の家からも圧力かけさせるからさ。ま、余裕でいけるだろ」

五条先輩と夏油先輩が話している内容の恐ろしさに震えていると、五条先輩にキスをされた。ちゅっと音を立てて触れあった唇が離れる。
丸いサングラス越しに蒼穹の色をした美しい瞳が熱っぽく私を見つめていた。

「大丈夫だって。俺達に任せておけば何も心配いらねえから。な?」

「怖がらなくてもいいんだよ。これからは私達がちゃんと君のことを守ってあげるからね」

「そうそう。ただちょっと自由に外に出られなくなるだけで」

「むしろ、いまよりも快適になるはずさ」

怖がるな、なんて無理な話だった。だって二人とも私の意思を置き去りにして私を閉じ込めるための話を進めている。

「なあ、足の怪我どうする?」

「自由に動けないのは都合がいい。かわいそうだけどしばらくそのままでいて貰おう」

「そうだな。かわいそうだけど」

灰原くんは戻って来ない。信頼している夏油先輩に私を任せたから安心して先生に報告しに行ったのだろう。
同期の私が今まさにその先輩達に監禁されそうになっているとも知らずに。

「大丈夫、手当てはするし、今夜は優しくしてあげるから」

「最初だからな。なるべく痛くしないようにするから心配すんなって」

夏油先輩と五条先輩に代わる代わるキスをされる。それはとても優しく甘い口付けだったけど、私の身体の震えは止まらない。

だから怪我なんてしてはいけなかったのだ。絶対に。
後悔の波に押し流されそうな私をどこかへと運んで行きながら、先輩達は足の怪我に響かない拘束具をどうするかについて熱心に話し合っていた。



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