鍋が美味しい季節がやってきた。
以前、伏黒達は虎杖直伝の肉団子鍋を食べたことがある。その時はまだ虎杖は死んだことになっていたので、彼らは亡き友人を偲びながらその味を噛みしめていたのだが、その頃虎杖もまた秘密を知る五条となまえの三人で地下室で鍋を囲んでいたのだった。わりと楽しく。
のちに真実を知った伏黒達が怒りを通り越して呆れたのは言うまでもない。
しかし今ではそれも良い思い出のひとつである。

今日はその同期の四人が全員揃って炬燵で鍋を囲んでいた。

「悠仁の肉団子鍋も美味しかったけど、なまえのも美味しいねえ。やっぱり愛がこもってるからかな」

飛び入り参加の五条も一緒に。

「ちょっと、何しれっと混ざってるのよ」

釘崎野薔薇はご機嫌斜めだった。
それは他でもない五条が四人用の炬燵の一角に堂々と陣取り、そのあり余るほど長い脚の間になまえを座らせているばかりか、彼女の手によって甲斐甲斐しく鍋の具を食べさせて貰っているからだった。
言いたい。いちゃついてんじゃないわよと言いたい。
そんな釘崎を虎杖が宥めにかかった。

「まあまあ、釘崎落ち着けって。こういうのは大勢で食べたほうがうまいじゃん」

「先生、お野菜も食べる?」

「うん。なまえがあーんしてくれたら食べる」

虎杖が宥める側からこれである。
きゅるんとした顔でぶりっ子ポーズを取りながらなまえにおねだりをする五条に、かわいこぶってんじゃないわよと言いたくなるのを釘崎はぐっと我慢した。
今日は楽しい同期会、楽しい同期会、と自分に言い聞かせて椎茸を口に入れる。
五条にひとつだけ同意出来ることがあれば、なまえが作った鍋は確かに美味しいということである。悔しいが五条の舌は確かだ。
豚肉と白身魚をメインに、白菜、椎茸、ニンジン、えのき、ホタテなど、具沢山の鍋だ。出汁が効いていて、ぽん酢につけなくても食べられるくらい美味しい。

「白菜も出汁がしみてて美味しいね」

なまえにあーんして食べさせて貰った五条が言った。
ぽん酢よりも好みなのか、五条は胡麻ダレで食べている。

「お肉もたくさん食べてね」

「ありがとう。なまえは優しいね」

五条がなまえの柔らかな頬にすりすりと頬擦りするのを見て、釘崎のこめかみにピキッと青筋が浮き出た。今ならノールックで五寸釘が打てそうだ。
一方、虎杖達の反応はというと、

「五条先生と苗字、ほんと仲いいよな」

「この状況でその感想が出てくるお前もすげぇよ、虎杖」

「そうか?悪い、伏黒、お茶取って」

「ん」

「サンキュー」

駄目だ。頼りになる仲間だけど、今はこいつらはあてに出来ないわ。釘崎はため息をついた。

「鍋もいいけど、甘いものが食べたくなっちゃった」

「あ、だめ、せんせ……んん」

見れば、なまえを振り向かせた五条が上から覆い被さるようにキスをしているではないか。しかも、ディープなやつだ。
教え子の目の前で教え子に手を出すなどとんでもなくヤバい男である。

「ん、やっぱり甘くて美味しくて最高」

濡れて艶めいた唇をひと舐めして五条が満足げに笑った。キスひとつでとろんとなってしまったなまえを抱いて立ち上がる。

「というわけで、なまえは連れて行くね」

シュン!
そんな擬音が聞こえたほど、文字通り一瞬のうちに五条は姿を消していた。
大切そうに抱き上げたなまえごと。

「て、はやっ!五条先生速すぎ!」

「言ってる場合?取り戻しに行くわよ!」

「やめとけ、釘崎」

「なんで止めるのよ!?」

「部屋に突入してヤッてる最中だったらどうする?あの人ならわざと見せつけるくらい平気でやるぞ。そんなことになったら俺は明日から苗字の顔をまともに見られなくなる」

「だよなあ……」

「くっ……!あの淫行教師!!!」



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