午後の任務を終えて職員室に行ったら五条先生が一人で椅子に座っていた。
窓から斜めに夕陽が射し込んでいて、長い脚を優雅に組んで頬杖をついている五条先生の純白の髪をキラキラと照らし出している。そうして黙って座っているだけで神様に特別に造られた存在なのだと思えてくるのだから凄い。実際、先生は特別な存在なわけだけど。
どうしよう、緊張するなぁと思いながら報告書を提出すると、先生は面倒くさがることもなくそれに目を通してサインをしてくれた。

「うん、合格。良く書けてるよ」

偉いねと優しく頭を撫でられる。前から思っていたことだけど、五条先生は生徒との距離が近い。パーソナルスペースが狭いのかもしれない。
初対面からこんな感じだったのであっという間に仲良くなれたし、普段から気さくに声をかけてくれる。でも、何というか、本当に本当のところでは簡単には本心を見せない人なのではないかと思っている。
それこそ相手が唯一の親友とかでない限り。

「なまえはまだ処女だよね」

「えっ」

突然の際どい話題にドギマギしてしまう。
教え子にいきなりそれはアウトじゃないでしょうか、先生。

「僕が言うのもなんだけど、セックスは好きな人とするのが一番気持ちいいと思うよ」

アイマスクに遮られて目元は見えない。
でも口元には笑みを浮かべていた。艶のある柔らかそうな唇。この唇で女の人にキスをしたり触れたりするのだろうか。
そう考えて胸がズキンと痛んだことにうろたえた。今のはなんだろう?

「誰かを好きになるには、まずその人のことを知ることからだね」

五条先生が私の手を取り、自分の手と手の平を合わせるようにしてくっつけた。大きさを比べるようにぴったりと。

「例えば手の感触」

今度は恋人繋ぎをするみたいに指を絡めてその手を握り込まれる。

「どう?僕の手。大きくて温かいでしょ」

小さく頷くのがやっとだった。心臓は早鐘のように鳴り続けているし、五条先生に気付かれないといいなと思ったけど、たぶん気付かれているに違いない。だって、先生は楽しそうに笑っている。

「なまえの手は小さくて可愛いね」

五条先生が私の手を自分の頬にそっと押しあてた。そうして、すべらかな肌の上を滑らせるようにして口元へ持ってゆき、おもむろに指先をやんわりと噛んだ。

「僕に噛まれた感触を覚えておいて。もし目が見えなくなっても噛まれた感触だけで僕だってわかるように」

指先に柔く食い込む真っ白な硬い歯の感触だとか。指に触れている柔らかな唇の感触だとか。そういったものが極彩色の鮮やかな感覚として私の脳に刻み込まれたのがわかった。

「覚えた?」

こくこくと頷く。そうすることしか出来なかった。言葉が出てこない。

「いい子だ。忘れちゃダメだよ」

忘れたくても忘れられそうになかった。
そんな私の反応を楽しそうに見ていた五条先生が、内緒話をするみたいに私の耳元に唇を寄せる。
ふ、と笑った先生の吐息が耳にかかってぞくっとした。五条先生がそのまま蜂蜜のような甘い声で囁く。

「もしも卒業するまで覚えていられたら、僕が最高のセックスを教えてあげる」

囁かれた声も内容もあまりにも甘すぎて。
私の脳みそはついにショートしてしまった。

「あれ?もう限界?本当にお前は可愛いね」

笑いながら真っ赤になって固まってしまった私を膝の上に抱き上げると、五条先生はそのまま私をぎゅっと抱き締めた。

「参ったなあ。あまりにも可愛くて卒業するまで我慢出来そうにないや。そうなったらごめんね?食べてもいいよね?なまえの初めて、僕にくれる?」

「え、あ、う、」

「こら、五条。生徒を誘惑するな」

コーヒーを飲みに来た硝子さんに呆れ顔で注意されるまで、五条先生は私を抱き締めたまま離そうとしなかった。本当に心臓に悪い人である。



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