「そうか……すまなかったね、おかしなことを言って」

「ごめんなさい、傑くん……」

「いいさ。悟と幸せになるんだよ」

それが最後に見た傑くんの姿だった。

聖地に戻った私のもとに、傑くんが任務先で百人以上の非術師を殺して逃亡したという知らせが届いたのだ。
傑くんは呪詛師として追われる身になってしまった。

私のせいだ。
これは自意識過剰でもなんでもなく、事実、最後のきっかけを作ってしまったのは私が彼の想いを拒絶してしまったからだとわかった。わかってしまった。

「お前のせいじゃない。僕も傑が苦しんでいたことに気付いてやれなかった」

悟くんが優しく抱き締めてくれる。
大きな身体はあたたかくて、とても頼もしく感じられた。
傑くんがいなくなってから変わってしまった一人称。最強の称号と引き換えに唯一無二の親友を失った悟くんは、以前よりも柔らかな話し方をするようになっていた。

「後悔してる?僕を選んだこと」

私は首を横に振って悟くんの大きな身体を抱き締め返した。想いが伝わるようにぎゅうぎゅうと抱きつく。

「悟くんが好き。どうしても、悟くんじゃなきゃだめだったから……だから、私」

「うん。僕もなまえを愛してる。僕にはお前だけだよ」

頬に触れた手は、大きくてゴツゴツしていた。私の大好きな悟くんの手。
私の顔を上向かせた悟くんは、その長身を屈めて私にキスをした。
そのあまりにも優しい口付けに泣きそうになる。

「僕を選んだことを、絶対に後悔なんてさせない。必ず幸せにしてみせる」

「悟くん……」

「だから、なまえは僕だけを見ていて。皆の女王様になっても、僕だけのなまえでいて」

「うん。約束する」

「なまえを傷つけようとする奴は僕が全て消してあげる」

こつんと額と額を触れ合わせて悟くんは不敵に笑ってみせた。

「大丈夫。僕、最強だから」



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