1/1 


2月3日。
今年も節分がやって来た。
赤屍さんが毎年美味しい恵方巻を作ってくれるので、もはや恒例行事になりつつある。

今年の恵方は南南東。

市販のものよりも少し細めに作ってもらった太巻きを頬張り、黙々と食べる。

「可愛いですね、聖羅さん」

赤屍さんの視線を感じるが、そちらを向く余裕はない。
食べきってしまうのが先だ。

「………ふぅ」

何とか全て食べきって飲む込むと、赤屍さんがお茶を手渡してくれたのでそれを飲んで一息ついた。

「毎回思うのですが、扇情的な眺めですね」

赤屍さんが笑って言った。

「つい、私のものを咥えている貴女を想像してしまいます」

「な、なんでそんなこと言うんですか!もう食べられなくなっちゃうじゃないですかっ!」

「これは失礼」

紳士的に謝っているけれど、騙されない。
ついさっきその口でとんでもない妄想をしていると白状したばかりなのだから。

「では、豆まきをやりましょうか。用意しておきましたよ」

「えっ、豆まきもやるんですか?」

「そのほうがイベントらしくて良いかと思いまして」

そういえば、ホンキートンクでも夏実ちゃん達が豆まきやるって言ってたなあ。
鬼は蛮ちゃん達らしい。
私も参加してみたかった。

「お茶は飲み終わりましたか」

「はい」

「では、これをどうぞ」

赤屍さんに枡に入った豆まき用の豆を渡される。
すると、赤屍さんは角が付いたカチューシャを頭に装着した。

「私が鬼です。捕まえたら酷いことをするつもりなので頑張って撃退して下さいね」

赤屍さんが笑顔でそんな恐ろしいことを言う。

「酷いことって…具体的には?」

後退りながら尋ねると、「そうですね」と赤屍さんは考える素振りを見せた。

「とりあえず、私の特製太巻きを食べたように、私のものにご奉仕して頂きましょうか」

「!?」

「さあ、逃げなさい。逃げないと…捕まえてしまいますよ」

「きゃー!鬼は外!鬼は外!鬼は外!!!」

私は迫り来る赤屍さんに豆を投げつけながら逃げ出した。

しかし、最強最悪の運び屋からは逃げられるはずもなく、赤屍さんの太くて大きい恵方巻を食べさせられることになってしまったのだった。

…これまで恒例行事になったらどうしよう…。


  戻る  
1/1
- ナノ -