今はいったい何日なんだろう。 ここに来てからというもの、時計があるお陰で時間だけはかろうじてわかるが、日付や曜日の感覚が麻痺してしまっていて、正確な日付がわからない。 ふと、唯一の出入口であるドアが外側から開かれ、甘ったるいチョコレートの香りが室内にどっと流れ込んできた。 「お待たせしました。夕食とデザートをお持ちしましたよ」 いつものように食事の乗ったトレイを片手に、赤屍さんが歩み寄って来る。 反射的にお腹がきゅるると鳴った。 悔しいが、餌付けされてしまっている感が否めない。 仕方がないのだ。 私の命は文字通りこの男に握られているのだから。 赤屍蔵人にこの部屋に監禁されて数週間。 もはや私に逆らう勇気は残っていなかった。 何度か脱出を試みたことはある。 しかし、そのたびに、彼は特段激昂するでもなく、ただいつも以上に甘ったるく、優しく私を抱いた。 そして、さりげなく私の家族や友人の話をして、行為の時の優しさが嘘のように無慈悲に釘を刺すのである。 私が逃げ出したら、私の大事な人達に危害が及ぶ可能性があることを示唆して。 「美味しいですか?」 私は素直に頷いた。 彼が運んで来た食事はどれもとても美味しい。 彼が手ずから作っているのだと聞いて、最初は驚いたものだ。 まったく生活感のないこの男が料理をしている姿が想像出来なくて。 今日は炊き込みご飯に、白身魚と蕪のかぶら蒸し、口に入れた瞬間舌の上で蕩けるほど丁寧に煮込まれた豚の角煮。 それらを順調に胃袋に収め、最後に浅漬けのきゅうりをぽりぽりと食べていると、赤屍さんが、綺麗にラッピングされたチョコレートをテーブルの上に乗せた。 「ハッピーバレンタイン、聖羅さん」 「えっ」 「今日はバレンタインですから、張り切ってしまいました」 バレンタイン。 そうか、今日は2月14日なのか。 「さあ、遠慮なく召し上がれ」 「…ありがとうございます」 拒むことなど許されない。 私はぎくしゃくとチョコレートを受け取ってラッピングをほどいた。 「これは…苺?」 「ええ、あまおうを干したものを練り込んであります」 ふわりと香る甘い匂い。 誘われるように、干した苺が練り込まれた板チョコにかぶりつく。 「甘くて美味しいです」 「そうですか。お気に召して良かった」 手の平に痛々しい古傷の残る赤屍さんの手に、頬をすくい上げられる。 「今度は貴女からのチョコレートが頂きたいですね」 そう言って、赤屍さんは私に口付けた。 チョコレートよりも魅惑的で、じわじわと私の心と身体を蝕む毒を含んだ、甘い、甘い、キス。 「愛していますよ、聖羅さん。貴女は誰にも渡さない。誰にも…ね」 まるで湯煎にかけたチョコレートのように、ドロドロに蕩けさせられていくのを感じながら、私は。 |