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週の真ん中水曜日。
いつもなら疲労がピークで憂鬱なこの日が、私は朝から楽しみで仕方なかった。
何故なら、仕事が終わった後に赤屍さんとデートの約束をしていたからだ。
バレンタインデートである。

「赤屍さん!」

「お迎えに上がりましたよ、聖羅さん」

今日の赤屍さんはスーツに暖かそうな黒いコートを着ている。
私はワンピースにしたけどドレスコードは大丈夫かな。

「今日の貴女も可愛らしいですね。その服装で問題ありませんよ」

赤屍さんがエスパーすぎてどうしよう。
いや、どうしようもないのだが。
それより、私服の赤屍さんが素敵すぎるほうが問題だ。

赤屍さんの腕に自分の腕を絡めると、赤屍さんがエスコートするように歩き出した。

「この先の店でバレンタインディナーを予約してあります。楽しんで頂けると良いのですが」

「嬉しいです!ありがとうございます!」

「私も貴女と過ごせて嬉しいですよ」

赤屍さんが予約していたというお店までは歩いてすぐだった。

お洒落な内装に、静かなクラシックが低く流れる店内は真新しく、オープンしたばかりの店なのだということがわかる。

「帰りは馬車を呼ぶことになっているので安心して下さい」

「ありがとうございます」

馬車さんに会うなら義理チョコを用意しておくべきだったかもしれない。
頻繁に会っているわけではないけれど、赤屍さんとお付き合いするようになってから何かとお世話になっているから。

「馬車に義理チョコは不要ですよ。貴女は私にだけ下されば良いのです」

「もう、赤屍さんたら」

赤屍さんは意外と嫉妬深いところがある。
蛮ちゃん達と遊んだ時は必ず迎えに来て、何をしたか確認されるし。
でも、それは全然嫌じゃなかった。
むしろ愛されていると実感出来て嬉しい。
それくらいの絶妙なさじ加減なのだ。

「あ、美味しい!」

「お気に召して良かった。お連れした甲斐があります」

バレンタインデーだけの特別なメニューだというコース料理は、どれも満足のいくものだった。
さすが赤屍さんの選んだお店だ。

「ワインお代わりしてもいいですか?」

「もちろん。今日はペースが速いですね」

赤屍さんがワインを注いでくれる。
ボトルで頼んでおいて良かった。
しかし、同じくらい飲んでいるはずの赤屍さんは顔色も変わっていない。
死がイメージ出来ない不死身の魔人と比べるのもおかしな話だが。

デザートを食べ終えて食後の紅茶が運ばれてきたところで、そろそろいいかなと、ラッピングしたチョコレートを差し出した。

「ハッピーバレンタイン、赤屍さん」

「ありがとうございます。それでは、私からも」

赤屍さんが手渡してくれたのは綺麗にラッピングされた箱だった。

「約束通り、手作りのチョコレートです」

「わぁい!ありがとうございます!」

「そんな風に喜んで頂けると私も嬉しいですよ」

楽しい時間はあっという間で、お店を出ると結構時間が経っていた。
ゆっくり食事を楽しんだ満足感と、赤屍さんとチョコレートを交換した幸福感で満ち足りた気持ちになりながら馬車さんのタクシーに乗り込む。

「チョコレート、食べてみてもいいですか?」

「ええ、どうぞ召し上がって下さい」

後部座席に収まり、タクシーが発進してすぐに私は赤屍さんから貰ったチョコレートを開けてみた。
赤いハート型のチョコレートが6個、箱の中に並んでいる。

「私が食べさせて差し上げましょう」

赤屍さんがその内の一つを手に取り、私の口に運ぶ。

「はい、あーん」

微かにベリー系の甘酸っぱさと濃厚なチョコレートの味が口の中に広がった。

「とっても美味しいです!」

「それは良かった。聖羅さんのチョコレートも食べさせて頂けますか?」

「はい!喜んで!」

あーんして食べさせあう私達が馬車さんにはどう見えただろう。

馬車さんには申し訳ないが、今年のバレンタインも私は幸せいっぱいだった。


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