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ネットで話題になっているお化け屋敷がある。

曰く付きの不動産物件を内見に行き、そこで恐ろしい目にあうという内容の、今流行りの脱出型お化け屋敷だ。

ホラー好きの友人二人がこれに食い付かないわけがない。
彼女達に巻き込まれる形で聖羅まで参加することになってしまった。

「こわい…」

「まだ始まってないよ!」

「ほんと怖がりなんだから」

朗らかに笑う友人達と待ち合わせたのはとある沿線の駅前。
ここで案内役の人と合流することになっているのだ。

「お待たせしました。Y不動産の担当の者です。早速物件にご案内しますので、どうぞ」

「あ、ハイ」

「お願いしまーす」

現れたのはスーツを着た若い女性だった。
お化け屋敷のスタッフだとわかっていなければ、本当に不動産屋さんの案内係の人かと思う言動に、やや混乱しながら彼女について歩いていく。
びくびくしている聖羅をよそに、友人二人はお気楽なものだ。
今までで一番怖かったお化け屋敷はどれかみたいな話で盛り上がっている。

「つきました。こちらになります」

案内係の人が立ち止まったのは、ボロボロの一軒家の前だった。
いかにも何か出そうな雰囲気だ。

「さあ、中へどうぞ」

「はーい」

「お邪魔しまーす」

「あ、待って!置いていかないで!」

案内係の女性、友人二人、聖羅の順で家の中に入る。
バス、トイレなどは共同ということで、1階にはそれらしきドアがあった。
案内係の女性が二階への階段を上がって行ったので、聖羅と友人二人も後に続く。

「こちらは住人の方がいるので開けないで下さいね」

二階に上がってすぐのドアを指して女性が言った。

「今回ご紹介する物件はこちらの部屋になります」

廊下を進んだ先にあったドアを女性が開ける。
促されて中に入ると、そこは小ぢんまりした四畳半で、上下のドアが分かれた珍しいタイプの押し入れが目についた。
室内は昼間なのに薄暗く、ぽつんと置かれたテレビの黒い画面に怯えきった聖羅の顔が映っている。

「ゆっくりご覧下さい。私は下で事務所に電話をかけてきますので」

そう言って女性は階段を下りて行った。

「あら、大家さん。お世話になっています。今、内見のお客様を……な、なにを!?」

──きゃあああああ!!
階下から恐ろしい悲鳴が聞こえてきたので、聖羅はギョッとして部屋から出た。
恐る恐る下を覗き込むと、女性が大家さんと呼んでいたらしき中年の男が血塗れの包丁を手に歩いて来るのが見えた。

「っ!」

突然口を塞がれてドキッとするが、それが背後に来ていた友人のものだとわかり、すぐに出かかっていた悲鳴を飲み込んだ。

「隠れて!」

そうか。こういうアトラクションなのだ。
聖羅は納得して部屋に戻った。
しかし、隠れると言っても、隠れられそうな場所は押し入れしかない。

「聖羅、早く!」

友人二人が押し入れの上段に上がっているのを見て、聖羅は慌てて自分も下の押し入れに入って戸を閉めた。

ドタドタと荒っぽい足音が聞こえてくる。
階段を上がり、部屋に近づいて来る。
バタン!と激しくドアを開け放つ音とともに、男が室内に入って来たのがわかった。

「……!」

咄嗟に手で口を押さえ、悲鳴が漏れないように我慢する。

──これはお化け屋敷…。これはお化け屋敷。本物じゃない。

必死に言い聞かせるが、恐怖のあまり、今にも口から心臓が飛び出そうだ。

「そこにいるのはわかってるぞ!」

男が叫び、押し入れのドアが外側から乱暴に開かれた。

「ひっ!」

「死にたくなければ出てこい!」

血塗れの包丁を突きつけられて、震えながら押し入れから出る。
聖羅の頭からはこれはお化け屋敷なのだという考えは綺麗さっぱり消え失せていた。

「来い!」

男に腕を掴まれ、引きずって行かれる。

「た、助けて…!」

思わず泣き声が漏れた、その時。


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