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就活が実って無事ホワイト企業に就職出来たのは良かったが、新人研修がめちゃくちゃ厳しくて早くも挫けそうだ。
今日も一日みっちりしごかれ、ボロボロになって帰宅したところを赤屍さんに迎えられた。

「こんばんは、聖羅さん」

「こんばんは、赤屍さん」

「まずは就職おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「お仕事は大変ですか?」

「はい、すごく」

「今が一番大変な時期ですからね。つらいと思いますが頑張って下さい」

「はい」

「では、お風呂に入りましょうか」

ここからが本番だった。

「よしよし、良い子ですね」

声をあげて泣く私の身体を、赤屍さんは柔らかい泡をまとわせたスポンジで丁寧に洗っていく。

「泣いて全部吐き出してしまいなさい。私が全て受け止めて差し上げますから」

メイクも落としてあるので、涙で顔がぐしゃぐしゃになっても平気だ。
泣き顔を見られる羞恥もはじめだけで、すぐに気にならなくなった。

「赤屍さぁん…」

「はい、何ですか」

「つらいですぅ…」

「よしよし、そうですよね」

「苦しいよぉ…もうお仕事行きたくない…」

「ええ、よくわかりますよ」

「赤屍さぁん…」

「よしよし、大丈夫、私がついていますよ」

言いながら、優しくシャワーの湯で泡を流される。
身体の汚れが洗い流されるとともに、胸の奥にずっしりと居座っていた重石のようなものが薄れて消えていく錯覚を覚えた。

ぐすんぐすんと鼻を鳴らしながら、赤屍さんの胸に顔をすり寄せて甘える。
すると、彼は私を抱き上げて湯船に浸かった。

「好きなだけ甘えて下さい。遠慮はいりませんよ」

「ふえぇ…」

ぬるめに設定したお湯は泣いて熱くなった身体にちょうど良く、同時に冷えきっていた心を温めてくれるようだった。

「厳しい研修は新人への最初の洗礼のようなものですからね。挫けそうになっても無理はありません」

お風呂から上がった私の顔を、お湯を絞ったタオルで拭きながら赤屍さんは言った。
身体の水分も手早くバスタオルで拭き取られる。

「つらいのは当然です。要はそれをどう昇華するかにかかっている」

「難しいです…」

パジャマ代わりにしているスウェットを着せてもらいながら、私はまだ赤屍さんにくっついてぐじぐじしていた。

「早い話が、捌け口を作ってしまえば良いのですよ。何かあれば何でも私に言って下さい。愚痴でも泣き言でも気が済むまで付き合いますよ」

「赤屍さぁん…」

「クス…よしよし」

この人は大人だ。
私の悩みを受け止めてなお、その余裕に満ちた態度は崩れない。
その器の大きさが羨ましいと思った。

私も社会人となった以上、大人にならなければいけない。
それは途方もない道のりに思えた。

「ゆっくりで良いですよ。貴女のペースで、少しずつ学んで成長していけばいい」

「はい…」

水分補給をし、ベッドに潜り込んだ私を赤屍さんが抱きしめてくれる。

「安心しておやすみなさい。愛していますよ、聖羅さん」

自分を包み込む大きな身体と腕を頼もしく感じながら、私は就職してから初めて心地よく眠ることが出来たのだった。


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