何だか寒い。 いまは夏のはずなのにおかしいなと思いながら、すぐ近くにあるぬくもりにすり寄ると、待っていましたとばかりにそれに包み込まれる。 少し体温は低めだが、抱き込まれていると気持ちがいい。 ……ん?体温? はっと目を覚ますと、赤屍さんの懐深く抱き込まれていた。 「おはようございます、聖羅さん」 「おはようございます……じゃなくて!なんで冷房強くしてるんですか!」 「貴女がくっついて来て下さるのが嬉しくて、つい」 朝から大いに脱力してしまった。 こんなことで電気代の無駄遣いをしないでほしい。 「車で職場まで送って差し上げますから許して下さい」 「許します」 即答だった。 週の真ん中の水曜日なんて一週間で一番ダルい日なのに、朝から満員電車に乗らなければならないのは地獄だ。 「赤屍さん、大好き!」 「私も愛していますよ」 時々その愛が重すぎる気もするが、誰もが羨む優しい恋人であることは確かだった。 「お腹すいたでしょう。いま朝食の用意をしますからね」 「わーい!」 朝からのんびり支度が出来ることの幸せを噛みしめていると、赤屍さんは手早く朝食を作ってくれた。 「さあ、どうぞ召し上がれ」 「いただきます」 赤屍さんのスクランブルエッグめちゃくちゃ美味しい。 味付けどうやってるのかな。 今度作っている時に覗いてみよう。 「私と一緒に暮らして頂ければ、毎日でも作って差し上げますよ」 「うーん…うーん…」 「悩むことなどないでしょう。生活する上で得することばかりで、マイナス面などないはずですが」 「だって、一緒に住んだら赤屍さん毎日エッチしそうだから」 「それは否定出来ませんね」 「やっぱりそうですよね。はい、この話はもうおしまい!歯を磨いてきます」 「残念。流されてくれませんでしたか」 それは、一緒に住んだら楽になることのほうが多いのは間違いないけれど、私はまだ腹下死したくない。 毎日のように抱き潰されるのは勘弁してほしい。 「聖羅さん」 支度を終えると、赤屍さんに呼びとめられた。 「お弁当です。お昼に食べて下さい」 「わあ、ありがとうございます!」 「では、車を回して来ますね」 玄関から出て行った赤屍さんと、手に持ったお弁当を見比べる。 赤屍さんて、私より女子力あるよなあ。 同じ独身の一人暮らしとしてスキルの差がありすぎる。 ちょっと落ち込んでいると、車が近づいて来る音が聞こえたので、玄関を出てドアに鍵をかけた。 「お待たせしました」 「ありがとうございます。お願いします」 「任せて下さい。安全に運んで差し上げますよ」 運び屋ですもんね、と笑って車に乗り込む。 いつもこの時間はバタバタしているのに、今日は助手席でゆったり座っていればいいだけなんて天国だ。 余裕があるって素晴らしい。 「では、行きましょうか」 「はい。しゅっぱーつ!」 安全運転で車が動き出し、見慣れたいつもの道を走って行く。 窓から外を眺めながら、なんとなく今日は良い一日になりそうな予感がしていた。 |