目が覚めて最初に感じたのは違和感だった。 手探りでスマホを取って時間を確認しようとして気が付いた。 部屋が真っ暗だということに。 確か、テレビを見ながら電気もつけたまま寝落ちしてしまったはずだ。 それなのにエアコンもテレビの電源ランプも消えている。 室内は完全な闇の中にあった。 「停電……?」 スマホの灯りを頼りにテレビのリモコンを見つけて電源ボタンを押してみたけれど、やはりつかない。 どうやら本当に停電しているようだ。 と、その時、玄関のチャイムが鳴った。 「すみません、電力会社の者です。この建物が停電していると連絡を受けて調査に来ました」 「あっ、はい、いま開けます」 スマホを懐中電灯代わりにして何とか玄関まで辿り着き、鍵を開ける。 ドアを開くと、作業着を着た男が一人立っていた。 「ご協力ありがとうございます」 にこやかに言って、男は手に持っていたサバイバルナイフを振り下ろした。 鋭い痛みとともにドスッと胸にナイフが突き刺さる。 血飛沫を上げながら、男は何度も何度もナイフを振り下ろした。 肺を傷つけられたのかゴボッと血を吐き出す。喉が血でごぼごぼ言っているのがわかる。 私がその場に崩れ落ちても男はナイフを振り下ろすのをやめなかった。 「────!!」 はっと目を開く。 辺りが真っ暗なことがわかると同時に悲鳴が喉元までせり上がって来たが、両手で口を押さえて何とか叫び声を上げずに済んだ。 すぐに手探りでスマホを探して、もどかしい思いで起動するのを待ち、ホーム画面が表示されたのを確認して電話のアイコンをタップする。 「お願い……早く、早く、出て」 呟きながら目当ての番号に電話する。 『はい。赤屍です』 「赤屍さん、助けてっ!」 『わかりました。すぐ行きます』 事情も何も尋ねず、赤屍さんはそう請け合ってくれた。 安堵が全身を包み込むのを感じる。 もう大丈夫だ。 赤屍さんが来てくれる。 ──と、その時、玄関のチャイムが鳴った。 ビクッと身体が跳ねる。 夢の通りなら、この後── ガチャ、と音がして鍵が開けられた。 ゆっくりとドアが開く。 「大丈夫ですか?聖羅さん」 そこにいたのは殺人鬼は殺人鬼でも、あの男ではなく赤屍さんだった。 「赤屍さんっ!」 笑顔になった私は赤屍さんに駆け寄る。 しかし、次の瞬間、赤屍さんの背後に現れた人物を見て私は凍りついた。 あいつだ──! 作業着を着た男が赤屍さんに向けてサバイバルナイフを振り下ろすのがスローモーションのように見えた。 何か叫び声を上げた気がする。 けれども、心配していたようなことは起こらなかった。 振り下ろされたナイフを振り向きもせずかわした赤屍さんは、彼の手に出現していたメスで男をコマギレにしてしまったからだ。 「もう大丈夫ですよ、聖羅さん。安心して下さい」 心の底から安堵すると同時に強張っていた身体から力が抜けていく。 驚愕の表情を浮かべたまま息耐えた男の惨殺死体と、闇夜を背に佇む赤屍さんを前に、私はその場にへなへなとへたり込んだ。 ただひとつ心配なこと。 このコマギレ死体をどうしたらいいか。 それを考えると、とてもじゃないが安心して眠れそうになかった。 |