『抽選見合い結婚法』が制定されて一年。 国民は未だ混乱の最中にあった。 この法案の対象者は、二十歳以上の男女で、 子供のいない独身者である。 本人の意思に関係なく無作為に相手がマッチングされるため、気にいらなければ、二人までは断ることができる。 しかし、どうしても気にいらずに三人目を断った場合は、テロ対策活動後方支援隊に二年間従事しなければならない。 除隊後の職場復帰は政府により保障されている。 尚、断られる側に人数制限はない。 幸いにも、私は最初にマッチングされた相手とごく平和的に結ばれることが出来た。 「お支度終わりましたか?蔵人さん」 「ええ、そろそろ出掛けます」 スーツの上に着た黒いコートに、黒い帽子。 ネクタイまで黒という、黒尽くめの格好は、蔵人さんの仕事着のようなものなのだと教えて貰った。 なんでも、返り血が目立たないからなのだとか。 蔵人さんは運び屋をしている。 裏稼業の人が珍しくもないこのご時世の中では、かなり収入が安定しているほうだと思う。 少なくとも、薄給の社畜だった私よりも稼いでいるのは間違いない。 三食昼寝付きという、専業主婦とも言えないような良いご身分になった今では、毎日のように午前様になるまで働いていた日々がまるで幻のように思えて来るほどに、蔵人さんには大事にして貰っている。 「行ってらっしゃい、気をつけて」 「行って来ます、聖羅さん」 私は背伸びをして、蔵人さんに行ってらっしゃいのキスをした。 その途端、ぐいと抱き寄せられて口付けが深くなる。 「んんっ」 舌を絡められ、熱い舌に口内をまさぐられて、あっという間に身体が熱く燃え上がっていく。 これも蔵人さんの調教の賜物だ。 いつ赤ちゃんが出来てもおかしくないくらい、毎日毎晩、私は彼の精を胎内に注がれているのだった。 「は……ぁ……」 ふらふらになった私がその場にへたりこむと、蔵人さんは満足そうに微笑んで帽子の縁に手をかけた。 「続きは、帰って来た後で」 艶めいた流し目をくれて、蔵人さんは出掛けていった。 まだ玄関に座り込んだままの私を残して。 もう、蔵人さんのばか! その気になっちゃったこの身体、どうしてくれるんですかっ。 |