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ネットで知り合った人達とのオフ会を兼ねたハロウィンパーティーに参加している。
場所は廃校になった小学校で、飾り付けをした体育館に集まったメンバーは皆それぞれ仮装をしていた。もちろん私も。

「初めまして。『ラブラブばねっち』の神崎聖羅です」

「よろしく〜!」

「想像以上に可愛いじゃん。俺と付き合っちゃう?」

「残念。聖羅ちゃん彼氏いるから」

以前、赤屍さんののろけ話をしたことがある今回のオフ会の主催者であるパンプキンさんが言った。本名も教えて貰ったのだがオンラインでの名前のほうが呼ばれ慣れているからということで皆パンプキンさんと呼んでいる。大きなカボチャの被り物をしていることもあり、一番ハロウィンらしい雰囲気が出ていた。

自己紹介の後は皆で音楽に合わせてゲームをしたり、各自持ち寄った食べ物を食べたりして盛り上がったのだが。

「肝試しがあるなんて聞いてないよ……」

「聖羅、怖いの苦手だもんね」

一番仲が良い友子ちゃんとペアを組めたのは幸いだった。オンライン上でよく話していたとは言え男の人と二人きりで暗闇を歩くのは危ない気がするし。

「校舎一周するだけだから平気平気」

「うう……」

友子ちゃんに励まされながら、懐中電灯の灯りだけを頼りに夜の校舎を歩いていく。

「今何か聞こえなかった?男の人の叫び声みたいなの」

私は真っ青な顔をぶんぶん横に振った。そんなものは聞こえなかった。例え聞こえていても聞こえなかったと自分に言い聞かせただろう。
しかし。

突然、バタバタと慌ただしく走ってくる足音が聞こえてきたと思ったら、廊下の曲がり角から血まみれの男の人が現れた。
死ぬほど驚いたが、すぐに自己紹介の時に私をナンパしてきた人だとわかり、友子ちゃんと一緒に駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫なわけねえだろ!殺されたんだ!二人とも!俺も殺されるところだった!」

男の人は完全にパニック状態に陥っているようだった。

「落ち着いて下さい。殺されたって誰に?」

「あいつだよ!あのカボチャ頭!」

パンプキンさん?まさか、そんな。

「とにかく、どこかに隠れましょう。怪我の手当てもしないと」

友子ちゃんは冷静だった。二人がかりで男の人を支えて歩き、二階にある女子用の宿泊部屋に向かう。
そこに着くと、友子ちゃんは自分の荷物の中からタオルを数枚出して男の人の手当てを始めた。私は何かの間違いだと思いながらもパンプキンさんのことを調べてみることにした。
MAKUBEXにメールでパンプキンさんの本名を伝えて大至急調べてほしいと伝える。
すると、一分もしないうちに返信が来た。

「これは……」

開いてすぐに目に入ったのは五年前のハロウィンの夜の日付の女子大生の死亡記事だった。どうやら大学のサークルの飲み会で性被害に遭って逃げる途中に事故死したらしい。
問題はその被害者の名前がパンプキンさんの本名と同じだということだった。
どういうこと?パンプキンさんは既に死んでいた?じゃあ、あのカボチャ頭の仮装をした人は誰なの?

「友子ちゃん、これ……」

友子ちゃんにスマホを見せようと振り返った私の目に飛び込んできたのは、友子ちゃんと男の人の背後に立ち、二人に向かって斧を振りかぶっているカボチャ頭の人物の姿だった。

「危ない!」

二人に体当たりしてもつれ合いながら倒れ込んだ真横に斧が突き刺さる。
男の人が叫び声をあげながら後退ると、カボチャ頭の人物は再度彼に向かって斧を振り上げた。

「パンプキンさん、だめ!」

倒れ込んだまま叫ぶと、ほんの一瞬カボチャ頭の人の動きが止まった。その隙に男の人が悲鳴をあげながら教室から逃げ去っていく。
カボチャ頭の人がこちらに向き直った。友子ちゃんを庇うようにしっかりと抱き締める。

「ごめんね……」

カボチャ頭の何者かは、そう告げると闇に溶け込むように消えて行った。

「助かっ、た……?」

友子ちゃんが呟く。まだ半信半疑の様子だ。

「聖羅さん」

急に名前を呼ばれて私達は飛び上がった。
しかし、すぐに声の主が誰か気付き、警戒する必要などないことがわかった。

「助けに来ましたよ」

「赤屍さん……!」

「私よりもMAKUBEXくんを頼るなんて、酷いではありませんか」

赤屍さんに軽くなじられる。
私はかつてないほどの安堵の波に襲われて友子ちゃんと一緒にその場にへたり込んだ。



「復讐だったのでしょうね。あの三人に対する」

MAKUBEXが警察に手を回しておいてくれたらしく、私達は簡単な事情聴取だけで解放された。
友子ちゃんと別れ、迎えに来てくれた赤屍さんの車で帰る途中、パンプキンさんの話になった。

「恐らく、貴女方は巻き込まれただけだったのでしょう。聖羅さんも友子さんも殺すつもりはなかったのだと思いますよ」

「だから、『ごめんね』?」

「ええ。優しい貴女を巻き込んでしまって申し訳なく思っていたのでしょう」



あの日教室から逃げ出した男の人は焼却炉の中で遺体となって発見された。
よほど恐ろしい目に遭ったのか、頭が真っ白になっていて恐怖に満ちた形相で死んでいたそうだ。死因はショック死らしい。

パンプキンさんの復讐は終わったのだろうか。

今もまだあのカボチャ頭の仮装のままどこかをさまよっている気がしてならない。

ハロウィンの夜がやって来るたびに。


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