実を言うと遅番が苦手だ。 レジ閉めをしないといけないし、片付けや明日の準備、申し送りを書かなければいけないから、帰宅が遅くなってしまう。 帰宅が遅くなると、夜道をびくびくしながら歩かなければいけない。そんなことと思うかもしれないが、ビビりにとっては死活問題なのだ。 早起きするのは得意なのでずっと早番だけやっていたいけど、シフト制なのでそうもいかない。 そんなわけで、今日も遅番をやっているのだが、どこからか変な物音が聞こえてくるし、かと思えば妙に静かだし、もう早く帰りたくて仕方がなかった。 「終わりましたか?」 レジ閉めを終えた途端、背後から聞こえてきた声に飛び上がりそうになる。 「あ、赤屍さん?」 「今日は遅番だと聞いていたのでお迎えにあがりました」 「ふえ……ふえぇん!ふえぇん!」 「よしよし」 思わず赤屍さんに縋りついて泣いてしまった。それくらい救われた気持ちだった。 嬉しいけど、どうやって入ったのだろう。 「事情を話したら警備員さんが入れてくれましたよ」 「あ、そうなんですね」 良かった。ブラッディなことにはなってなかった。 赤屍さんに付き添って貰ってお金を入金しに行き、超特急で片付けを済ませて申し送りを書き終えた私は、ロッカーで着替えてから待っていてくれた赤屍さんと一緒に通用口から外へ出た。 「優しい彼氏が迎えに来てくれて良かったね」 人の良さそうな警備員のおじさんににこにこしながらそう言われた私は照れながら頭を下げて、赤屍さんの車が停めてある駐車場に向かった。 助手席に乗ると途端に睡魔に襲われて、自宅に着くまで眠ってしまった。 赤屍さんに抱き上げてもらって室内まで運んで貰い、軽くシャワーを浴びてからパジャマに着替えた。 「今日はお疲れさまでした」 ベッドに横になると赤屍さんが優しく頭を撫でてくれる。こうしていると、守られていると感じられて凄く安心する。 「明日は少し忙しくなるかもしれませんが、頑張って下さいね」 赤屍さんの言葉の意味を考える間もなく眠りに落ちていく。 翌朝。 職場の上司からの電話で起こされた私は驚くべき真相を知ることになった。 第一発見者は早番で出勤した別の店舗の社員だったそうだ。 彼女は店の床に倒れている同僚を見つけてすぐに警察に通報したのだが、被害者はそれだけではなかった。 昨日遅番や残業で残っていた者は皆殺しにされていたのだ。 犯人はあの人の良さそうな警備員さんだった。 「あんな血の匂いが染み付いた化け物にはさすがに敵わないと思った」 赤屍さんを一目見た瞬間、警備員さんはそう直感したらしい。 赤屍さんに守られていると感じたのは正しかった。 あの夜、他の人達と同じように殺されていたはずの私は、赤屍さんが迎えに来てくれたことによって助かったのだ。 「良い機会ですし、私と一緒に暮らしませんか?引っ越し作業は私と馬車でやりますから何も心配はいりませんよ」 赤屍さんの申し出に一も二もなく頷いたのは言うまでもない。 |