おはようございます。 今朝はかなり冷え込みましたが、ちゃんと起きられましたか? 日増しに布団から出るのがつらくなってきているのでしょうね。 かわいそうに。 だから、何度も言っているように私の配偶者になって下されば、毎朝頑張って起きる必要などなくなりますよ。 貴女はずっと家にいてくれれば、それで良い。 悪い話ではないはずだ。 考えておいて下さいね。 ところで、鍋が美味しい季節になりましたね。 炬燵に入りながら、熱々の鍋をつつく。 そんな日本人らしい夕食はいかがですか? お好みで、ぽん酢と胡麻垂れをご用意しておきますよ。 ああ、ご心配なく。 鍵がかかっていても入れますから、お帰りになる頃に出来上がるように支度をしておきますよ。 それでは、ご帰宅をお待ちしております。 赤屍蔵人 ───── 自宅に帰ると、何故か灯りがついていてドキッとしたが、そういえば赤屍からメールが来ていたなと思い出した。 鍵がないのにどうやって入ったのだろう。 「お帰りなさい、聖羅さん。鍋の準備出来ていますよ」 玄関のドアをそっと開けると、エプロンをつけた赤屍に出迎えられた。 エプロン姿のDr.ジャッカル…蛮あたりが見たら驚きそうだ。 不法侵入者に文句のひとつでも言おうと思っていたのだが、あたたかい空気に包まれて毒気を抜かれてしまった。 何より、美味しそうな匂いがしていて空腹を訴えるお腹にダイレクトアタックを受けた気分である。 部屋に入ると、何故か今朝まではなかった炬燵が鎮座していた。 「寒かったでしょう。炬燵に入って暖まって下さい」 こうなるともはや誰の家なのかわからない。 炬燵に入ってほっと一息ついた聖羅の前に湯気が立ちのぼる鍋が置かれ、赤屍が取り皿に椎茸やら白菜やら豚肉やらを取り分けてくれた。 小皿にはぽん酢と胡麻垂れがそれぞれ入っていて、二種類の味が楽しめるようになっている。 「さあ、どうぞ召し上がれ」 「い…いただきます」 ぎくしゃくと箸を手に取り、取り皿の白菜をぽん酢につけて食べる。 冷えた身体の芯に染み渡るようなあたたかい美味しさだった。 そのままぱくぱくと食べ始めた聖羅を、何が楽しいのかにこにこしながら赤屍が見つめている。 細められた切れ長の瞳が怖い。 「本当に無防備な方だ。何の警戒もなく、私が作った料理を食べてしまうなんて、ね…」 「!?」 「大丈夫ですよ。何も入れてはいません。安心して下さい」 びっくりした…。 何か混入されたのかと思った。 「私に気を許して下さっているということですからね。嬉しいですよ」 「そ、そういうわけじゃ…」 「その調子で、私がいなければ生きていけない身体になって下さい」 「な、なりません!」 「そうでしょうか?」 相変わらず笑顔の赤屍が怖い。 何より怖いのは、口ではいやだ怖いと言いながらも、そんな赤屍を受け入れてしまっていることだった。 聖羅が赤屍の扶養に入る日はそう遠くないかもしれない。 |