「運び屋の赤屍蔵人と申します」 それを運んで来たのは、全身黒尽くめの男の人だった。帽子もスーツもロングコートもネクタイも黒。運び屋というより葬儀屋か殺し屋のようだと思ったのを覚えている。 「ある方の依頼で貴女にこれを届けに参りました」 「これは……?」 「幸運の御守りです」 それはパッと見、ただの白い封筒だった。 ただ、中に何か入っているらしく、それなりの重みがある。 「決して中身を見てはいけません。誰かに見られてもいけません。誰かに譲ることも出来ますが、自然に無くなるまで持っているのが良いでしょうね」 「えっ」 「約束さえ守って頂ければ、それは貴女に様々な幸運をもたらしてくれるはずです。正しく使って『幸せ』になって下さい」 「ま、待って下さい、まだ受け取るなんて言ってないですよ!」 「それの所有者は既に貴女です。大丈夫、アフターサービスとして私が見守っていますので」 こうして何がなんだかわからないうちに私は幸運の御守りを手に入れてしまったのだった。 それからは、びっくりするほど良いことが続いた。 職場では仕事がとんとん拍子に上手くいき、お給料も上がったし、同僚や上司からの信頼も厚くなった。 街を歩けば次々とイケメンと遭遇して連絡先を交換するまでの仲になったし、欲しかったけど高すぎて諦めていた品がタダ同然の値段で手元に転がり込んできた。 そうなると、やはり私の境遇を妬んでくる人も出てきたのだが、そんなことさえも気にならないくらいに私は幸せだった。 幸運の御守り様さまである。 「へぇ、ここが先輩の部屋なんですね。もっと良いところに住んでると思ってました」 ある日、どうしても断りきれなくて職場の後輩を部屋に入れることになった。彼女は幸運続きの私を妬んであれこれ嫌味を言ってつっかかってきているのだが、これを機会に関係が良くなればと思ったのだ。 「お茶淹れるから座って待ってて」 「はーい」 可愛らしい声での返事に油断したのが悪かった。 「先輩、これなんですか?」 「あっ、それは」 止める暇もなかった。最初から彼女は私の部屋を家捜しするつもりで来ていたのだとその時わかった。そして、私の顔色が変わったのを見て、その封筒が何か大事なものだということがわかったのだろう。 彼女は迷いなく封筒を開け、中身を見ようと覗き込んだ。 「それは幸運の御守りですよ」 聞こえたのはあの男の人の声だった。いつの間にか部屋に入って来ていた赤屍さんが、にこやかな笑みを浮かべて彼女に言った。後輩が不審そうに彼を見上げる。 「誰?先輩の彼氏さん?」 「え、ええ」 そう答えなければいけない雰囲気だった。 「それは貴女に差し上げるそうですよ。そうですよね、聖羅さん?」 「本当ですか!?ありがとうございます!」 「それの所有者は既に貴女です。どうぞ持って帰って下さい」 始めからそのつもりだったようで後輩は封筒を持って嬉々として帰って行った。 「危ないところでしたね」 「ど、どうして」 「言ったはずですよ。貴女を見守っていると」 赤屍さんが言った。 「それに、私は貴女の彼氏だそうなので」 三日後、後輩は変死体となって発見された。 そして私には彼氏が出来た。 あれが何だったのか今でもわからない。 赤屍さんに聞けばあるいは教えてくれるかもしれないが、何となく聞かないほうが良い気がしていた。 特に、こうして就寝間際におやすみのキスをされている時などは。 「おやすみなさい。私が見守っていますから、安心して眠って下さいね。私の可愛いひと」 |