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「お迎えに上がりましたよ、聖羅さん」

職場まで赤屍さんが迎えに来てくれた。同僚がざわついているけど気にしない。

「わざわざ彼氏がお迎えに来てくれるなんてお姫様みたいね」

お局様にも特大の嫌味を頂いたが気にならない。私には切実な事情があるからだ。

今朝のことである。
朝、出勤しようと家を出たら、誰かが引っ越して来たらしく、引っ越し業者のトラックが停まっていた。その陰でつまらなそうに立っていた男の子が、私と目が合うなり、にこにこしながら寄って来たのだ。

「おねえちゃん、あそぼ」

「ごめん。お仕事だからまた今度ね」

そう言ってそそくさと立ち去ったのだが。

「聖羅、男の子が憑いてるよ」

「えっ」

視えると有名な同僚にそんなことを言われてしまったのだった。

「白い体操着を着て白い帽子を被った男の子なんだけど、知らない?」

「朝、会いました……」

「悪いものじゃなさそうだけど、無邪気なぶん厄介だったりするから、早めに対策取ったほうがいいかも」

私はすぐさま赤屍さんに連絡して迎えに来て貰う約束を取り付けた。

「体操着の男の子、ですか」

自宅まで車で送って貰い、赤屍さんの背中にぴったり張り付いて玄関前まで来たのだが。

「いないようですね」

「本当に……?」

「ええ。外にも中にも見当たりません」

「はあ……良かったぁ……」

「私が怖くて隠れてしまったのでしょう」

幽霊に怖がられる赤屍さん……いったい何者なのだろう。いや、確かに生きている人間からも怖がられているけども。

「とりあえず、安心していいのかな?」

「そうですね。さあ、中に入りましょう。夕食を食べてお風呂に入ってゆっくり休んで下さい」

「はい、ありがとうございます」

部屋の中に入った私は、赤屍さんが作ってくれた冷しゃぶを胡麻ダレで頂き、お風呂で汗と汚れを洗い流して、清潔なパジャマに着替えて、ちょっと狭いけど赤屍さんとくっつきあって同じベッドで幸せな眠りについたのだった。

やっぱり私の彼氏、最強。

翌日はいつもより少し早めに家を出て赤屍さんに車で職場まで送って貰った。

「それでは、私はこれで」

「はい、ありがとうございました」

熱く抱擁をし、ちゅっちゅっとキスを交わしてから赤屍さんは帰って行った。少し寂しいけど仕方ない。
朝早いからかまだ人は少なく、赤屍さんといちゃついているのを見られたのは別の部署の人だけだった。
スキップでもしたくなるような楽しい気分でロッカールームに入ると、中には誰もいなかった。これならゆっくり支度が出来る。
そう思いながらロッカーを開けると、ドアの裏側に付いた鏡に何か白っぽいものが映っていた。
何気無く振り返った私の視界に白い体操着を着た男の子の顔が映る。男の子の身体が縦に伸びて私の顔面すれすれに真っ白な顔が近付く。
ニヤニヤ笑いを浮かべた顔が大きな口を開いて言った。

「 あ そ ぼ 」


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