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南から吹き込む暖気のお陰で、12月だというのに今日は随分と暖かい。

シフトを調整してお休みになったため、今日は買い出しに行っていたのだが、この陽気のせいで汗をかいてしまった。

堪らず飛び込んだのはいつもの喫茶店。
ドアを開ければ、すっかり顔馴染みとなったマスターとウェイトレスの子達が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、聖羅さん!」

「わ、今日は凄い荷物ですね。買い出しですか?」

「こんにちは。そうなの、お休みだからたくさん買い込んじゃった」

「ご注文はやっぱり冷たい飲み物ですか?」

「うん、アイスティーをお願いします」

「かしこまりました!」

テーブル席に荷物を置いて座り、ハンカチで汗を拭う。
すると、またドアが開いて奪還屋の二人が賑やかしく入って来た。

「あっつーい!12月なのになんでこんな暑いの蛮ちゃん!?」

「うるせぇな。ニュースでやってただろ」

「俺知らないよ!カーラジオつけるなって言ったの蛮ちゃんじゃん!」

「それより、お前、次は原宿だからな」

「ええー!?もうサンタの格好するの疲れたよぉ」

「文句言うな。仕方ねえだろ金無いんだから」

「蛮ちゃんがパチンコでスッたせいなのに!」

「うるせえ!連帯責任だ!」

「いたっ!蛮ちゃんがぶった!」

「お前らなぁ…」

何とも賑やかなことである。
マスターが呆れてしまうのも無理はない。
一連の会話の流れから、どうやらパチンコで報酬を使いきってしまったせいで街頭でサンタコスのバイトをしているのだろうということがわかった。

「一足早いサンタさんですね」

「ヒッ!」

奪還屋の二人の会話に気をとられていたら、いつの間にか赤屍さんが向かい側に座っていた。

「こんにちは、聖羅さん」

「こここんにちは」

気配消して来店するのやめて下さい。
全然気がつかなかった。

「今日はお買い物ですか。随分と大荷物ですね」

「ええ、まあ…」

「それでは自宅まで持ち帰るのは大変でしょう。私が運んで差し上げますよ」

「えっ、いえ、あの」

「アイスティーを飲み終わったら車で送って行きましょうね」

ありがたいと思う気持ちと恐怖心とがせめぎあっている。
断るべきなのだろうが、この気温の中歩いて帰ったらまた疲れそうだし…と打算的な思いがぐるぐると渦巻いていた。
と、そこへ、

「おい、聖羅。バイトが終わってからでいいなら俺が送ってやるぜ」

「蛮ちゃんが優しい…!」

「俺はいつも優しいだろ」

是非お願いしますと言おうとした時、突然物凄い寒気を感じて震えあがった。

赤屍さんだ。
赤屍さんが絶対零度の冷気を発して蛮ちゃんを見ている。

「聖羅さんは私が送って行きますよ、美堂くん。邪魔をしないで頂きたい」

「ハッ、怖がられてるくせによく言うぜ」

二人の間にバチバチと火花が散る。
その二人の視線が同時に私に注がれた。

「貴女は私が送って行きます。それでよろしいですよね?聖羅さん」

「いえ、あの、蛮ちゃんに…」

「よろしいですよね?」

「ハイ」

蛮ちゃんが舌打ちして赤屍さんを睨む。

「ごめんね、蛮ちゃん」

「お前は本当にそれでいいのかよ」

だって赤屍さん怖いんだもん。
銀ちゃんが同意するように哀れみの眼差しを向けてくるのがつらい。

「では、行きましょうか」

「ハイ」

物言いたげな奪還屋の二人に見送られて私と赤屍さんは喫茶店を出た。

「ところで、クリスマスのご予定は?」

「お仕事です」

「では、その前の日にでも出掛けましょうか。イヴの夜は一緒に過ごしましょうね」

「えっ」

にこにこと微笑みかけてくる赤屍さんに、私は暑さからくるものではない汗をダラダラと流しながら尋ね返した。

「ど…どうして、赤屍さんと過ごすことになっているのでしょう?」

「クリスマスは大切な人と過ごす日なのでしょう?」

「はあ、まあ、そうですが」

「私にとって、貴女は誰よりも大切な、かけがえのない方だ。ですから、クリスマスは貴女と過ごしたいのです」

「で、でも…」

「良いですよね?」

「ハイ」

こうして、私は半ば脅迫される形で赤屍さんとクリスマスを過ごすことになったのだった。


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