スマホの着信音で目を覚ました。 半分寝ぼけたまま、手探りで枕の横にあるはずのスマホを探して手に取る。 『おはようございます、聖羅さん』 画面をスワイプして聞こえてきた声に、今度こそしっかりと目が覚めた。 「おはようございます、蔵人さん」 電話の向こうの相手は先に起きて仕事に出かけて行った赤羽蔵人、私の最愛の旦那さまだった。 昨夜おやすみの挨拶をしてから数時間しか経っていないのに、もうこんなにも蔵人さんの甘いテノールが恋しい。 蔵人さんとは友人に誘われて参加した飲み会で知り合った。 実のところ、私は病院やお医者さまが苦手だったのだが、蔵人さんは初めから優しく話しかけてくれて、私の中の苦手意識を消し去ってくれたのだった。 それからすぐにお付き合いを始めて、三ヶ月前に結婚したばかりの新婚夫婦だ。 蔵人さんは新宿にある大病院に勤めている外科医で、心臓外科にやって来る患者さんの手術を主に担当している。 天才ドクターとしてテレビに出たこともある優秀なお医者さまで、私と結婚する前は半年先まで毎日手術の予定がぎっしり組まれていたほどだった。 結婚してからは目に見えて手術の量を減らして、私との時間を大切にしてくれている優しい旦那さまである。 『今日はグラタンとサラダを作ってありますから、電子レンジで温めて食べて下さいね。火傷をしないように気をつけて』 「はーい」 甘い美声にうっとりとなりながら返事をしてベッドから起き上がる。 このモーニングコールは、朝早くから出勤してしまう蔵人さんが私が起きる時に寂しくないようにと始められたものだった。 多忙な医師に独身が多い理由のひとつに、共に生活するにあたってすれ違いが起きてしまうということが挙げられる。 その点、蔵人さんは予想の遥か上を行く理想的な旦那さまだった。 ゴミ捨てや洗い物は当たり前、お料理だって私よりも上手いし、家事とも言えない細かな用事にまで気を回して片付けてくれるものだから、私の親はこんな良い人は他にいないと蔵人さんを拝む勢いで心酔している。 こう言うと私がずぼらな主婦と思われてしまうかもしれないが、私も一応働いているので、共働きなのである。 朝、蔵人さんが私を起こさないように出勤して行くのは、私の出勤時間と重ならないからなのだ。 少しでも長く休ませてあげたい、という蔵人さんの希望によるものである。 何故なら、ほぼ毎晩のように繰り返される念入りな子作りのために、私がいつもぐったりと寝落ちしてしまうからだった。 蔵人さん、絶倫なんだもん。 それでも、頑張って何とか同じ時間に起きようとしてみたのだが、目覚ましをセットしてもいつの間にかいつも私が起きる時間に変更されてしまう上に、蔵人さんは全く気配をさせずに支度をして出勤してしまうので、まだ成功した試しがない。 せめていってらっしゃいのキスがしたいですとおねだりしたら、おはようのキスは毎朝していますよと優雅な笑顔で言われてしまった。私の旦那さまがスパダリ過ぎてつらい。 『お支度は出来ましたか?』 「はい、バッチリです」 『では、気をつけて行って来て下さい』 「はい、蔵人さんもお仕事頑張って下さいね」 『ありがとうございます。それでは、また夜に』 優しい声がぷつりと途絶える。また夜に。 そうだ、また夜に逢えるのだから寂しくない。 とりあえず、まずは蔵人さんが作り置きしてくれたこのグラタンとサラダを食べてしまおう。 「蔵人さん、いただきまぁす」 夜の子作り楽しみだなあ。目がハートマークになっちゃう。 早く蔵人さんに似た赤ちゃんがほしい。 |