カウンター席に座った私は、通りに面した窓ガラス越しにぼんやり外を眺めながらハート型のマシュマロが入ったホットガーナミルクチョコレートを飲んでいた。 朝マックならぬ、朝ロッテリアである。 今朝も冷え込んでいるので、ホットチョコだけでも随分と身体が温まるものだ。 ふうふうとホットチョコを吹き冷ましていると、目の前に影が差して、窓ガラスがコンと叩かれた。 待ち人きたる。赤屍さんである。 彼は私が自分に気がついたことがわかるとすぐに外側を回り込んで入口から入って来た。 「おはようございます」 「おはようございます、赤屍さん」 お互いに挨拶を交わし、微笑んだ。 赤屍さんが提げている小さなショッピングバッグには有名な高級ジュエリーショップのロゴが印刷されていたので、ああ、とわかってしまって嬉しくなる。 「お誕生日おめでとうございます、聖羅さん」 「ありがとうございます」 今日は私の誕生日なのだった。仕事に行く前に少し逢えませんかと尋ねられた時から何となく予感はしていたものの、こうしてお祝いをして貰えるとやはり嬉しい。 私はクリスマスの朝にツリーの下にプレゼントの箱を見つけた子供のようにわくわくしていた。 「開けてみてもいいですか?」 「もちろんです。お気に召すと良いのですが」 お気に召さないはずがない。だって、この世で一番大好きな人からの誕生日プレゼントなのだ。 「わ、綺麗!」 いかにも高級そうなケースに入っていたのは、恐らくプラチナであろう細やかな細工が美しいリングの中央に嵌められた血のように赤い雫型の宝石が印象的なネックレスだった。 「これでしたら、仕事中も身につけていられるのではないかと思いまして」 「肌身離さず身につけます。ありがとうございます、赤屍さん」 「どういたしまして。喜んで頂けて嬉しいですよ」 早速身につけようと首にあてると、赤屍さんが受け取って手早く着けてくれた。 ひやりとした感触とともに胸の谷間に収まったそれを見下ろす。嬉しさのあまり思わず口元が緩んでしまう。 それを隠すためにホットチョコのカップを両手で包み込んだ。 「これ美味しいですよ」 「ホットチョコレートですか」 「赤屍さんも飲んでみます?」 「そうですね」 赤屍さんが身を屈めたかと思うと、唇に柔らかい感触が触れた。 「確かに甘くて美味しいですね」 「も、もう、言ってくれたら飲ませてあげたのに」 「いえ、私はこちらで充分ですよ」 そう言って微笑んだ赤屍さんにまた口付けられる。 「ありがとうございます。お陰で充電出来ました」 「わ、私も」 「お互いに今日一日頑張りましょう。終わったら連絡して下さい。お迎えに上がります」 「はい、楽しみにしてます」 それでは、と帽子を被った彼は、もう『運び屋の赤屍蔵人』の顔になっていた。 艶めいた流し目と微笑みひとつを残して去っていく後ろ姿を見送る。 寂しくはなかった。 今夜また私の恋人としての彼に逢えるのだから。そして、ホットチョコよりも熱くて甘い夜を共に過ごすのだ。 私もホットチョコの残りを飲み干し、仕事に行く前に口紅を塗り直すために席を立った。 |