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身体が美味しいものを求めている。

週の半ばの水曜日ともなると、もうどうしたって疲労が溜まってきている頃合いだ。
あと二日、あと二日、と心と身体に言い聞かせながら何とか踏ん張っている状態である。
こうなると何かしらブースターになるものが必要で、私の場合は仕事帰りに馴染みの店にラーメンを食べに行くことにしている。
寡黙な職人気質の店主と愛想の良い奥さんの二人で切り盛りしているお店で、昔ながらの中華そばをはじめとして変わり種まで様々なラーメンが楽しめる穴場だった。
私のお勧めは、焦がしにんにくの効いた醤油ラーメンだ。
濃すぎず薄すぎずの程よい濃厚さのスープに、中太のちぢれ麺がよく合っていて、そこに焦がしにんにくのパンチが加わり、堪らない味になっている。
身体が定期的な摂取を求めるくらいにハマっているそれを、今日も仕事帰りの疲れた身体を引きずるようにして店に辿り着き、心ゆくまで味わっていると、ふと隣の席に座るお客さんが目に入った。

スーツに黒いコート。黒いスラックスの膝には同じく黒い帽子が置かれている。
長めの黒髪は後ろになびくように自然に流してあり、音も無くラーメンを啜るその横顔はちら見しただけでもわかるほど整っていた。
不意に切れ長の瞳がこちらを流し見たのでドキリとして視線を逸らす。

「こんばんは」

「こ、こんばんは」

それは背筋がゾクッとするような甘いテノールだった。
耳から全身に甘い毒が広がっていくような錯覚に、何故だかそわそわして落ち着かない気分になる。

「いつも水曜日にいらっしゃる常連の方ですよね」

見られていたと知って頬が赤くなった。

「とても美味しそうに召し上がっているので記憶に残っていたのです。失礼だと思われたのならば謝ります」

「あ、いえ、そんなことは」

「焦がしにんにくの良い香りがしていますね。醤油ラーメン、美味しいですか?」

「凄く美味しいです。お勧めですよ」

言いつつも、にんにく臭くないか気になってしまった。今すぐポケットに入っているレモン味のブレスケアを噛みたくて仕方がない。

クス、と笑ったその人はおもむろにグラスを持ち上げて水を飲んだ。
なまめかしく動く喉仏に視線が釘付けになる。
どうしてかはわからないが、私は目の前の男性に激しく魅了されていた。

「では、私も今度頼んでみましょう」

一見涼しげに見えるその容貌に、確かに私と同じ欲情の火の影がちらついているのを見つけて、ごくりと喉が鳴る。

──ダメだ、こんなのはいけない。初めて逢った人とだなんて。

「よろしければ、この後デザートを奢らせて頂けませんか。もう少しお話したいと思いまして……いかがでしょう?」

「是非!」

気がついた時には私は一も二も無くその申し出に飛びついていた。
自分でも自分の行動が信じられない。

「申し遅れました。私は赤屍蔵人と申します」

赤屍さんが微笑む。
その微笑みを目にして覚悟が決まった。



数時間後。

私は赤屍さんに組み敷かれて喘いでいた。
巧みな腰使いと手練手管に、甘ったるい声が漏れ出てしまうのが止められない。
シーツに押さえつけられた手を恋人繋ぎのように握られながら突き上げられて、子宮がきゅんきゅん疼く。

だって、仕方がないのだ。
身体が美味しいものを求めていたのだから。

食べられたのは私のほうかもしれないけど。


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