月曜日の朝は憂鬱だ。 こんな寒い日は特に。 出来ることならお布団から出たくない。 しかし、そんなわけにはいかないので、いつまでもぐずぐずしていたがる身体に鞭打って布団の外に出る。 途端に全身に襲いかかる冷気にぶるっと身震いすると、炬燵と電気ストーブのスイッチを入れてから急ぎ足で洗面所に向かった。 顔を洗い、歯磨きをし、超特急で身支度を済ませる。 水回りはなるべく早く済ませてしまいたいので多少適当になってしまうが、寒いのだから仕方ないと自分に言い聞かせた。 「さむい…さむいぃ」 急いで炬燵布団の中に飛び込む。 テーブルの上には昨夜の内に化粧道具と折り畳み式の鏡を準備してあったので、炬燵でぬくぬくと温まりながら化粧を始める。 今度は炬燵から出たくなくなった。 化粧を終えたらドライヤーで髪を整える。 あとは着替えるだけなのだが、これがハードルが高い。 炬燵から出なければならないし、せっかく温まった服を脱がなければならないからだ。 断腸の思いで炬燵を出て、急いで服を着替える。 簡単な朝食を済ませて、薬用マウスウォッシュで口をすすいだら、急に書類に不備がないか気になりだした。 ノートパソコンを開いて確認し、ほっと息をつく。 コートを着て通勤用のバッグを肩に掛け、靴を履いて自宅の鍵を手に玄関を出る。 ドアを閉め、鍵をかけて振り返ると、目の前に黒衣の運び屋が立っていた。 「ヒッ!」 「おはようございます、聖羅さん」 「おは、おはようございます…」 「今日は冷えますね。車で職場までお送りしましょう」 「あの、でも」 「さあ、こちらへ」 肩を抱かれ、思わずビクッと身体が跳ねる。 赤屍は構わず、そんな聖羅を車まで連れて行った。 ドアを開けて助手席に押し込められ、膝の上にブランケットを掛けられる。 車の中は暖かかった。 知らず詰めていた息を吐き出す。 車が動き出してしまうと、もう逃げられないのだからと逆に覚悟が決まった。 しかし、赤屍の一挙手一投足が気になって仕方がない。 「そう怯えられると、このまま攫ってしまいたくなります」 「会社に!会社に運んで下さい!」 「貴女のお願いなら仕方ありませんね」 ちゃんと職場に着くだろうかとびくびくしていると、膝の上に何かを置かれた。 風呂敷で包まれた小さめの重箱だ。 「お弁当です。お昼休みに召し上がって下さい」 「あ、ありがとうございます」 今日は社食にしようかコンビニのおにぎりで済ませようかと悩んでいたので、これはありがたかった。 恐ろしい男だが、彼は自分より料理が上手い。 味は保証付きだった。 「着きましたよ、聖羅さん」 身体が温まったことで少しうとうとしてしまっていたらしい。 気がつくと、職場近くに車が止められていた。 「す、すみません!ありがとうございましたっ!」 あたふたと車を降りる。 一度向き直ってぺこりとお辞儀をしてから職場へと向かった。 自然と急ぎ足になる。 そんな姿を赤屍は薄く笑んで見送っていた。 「はあ…びっくりした」 朝からとんだハプニングに遭ってしまったが、何とか職場に到着してほっと息をつく。 お昼休みに食べたお弁当はとても美味しかった。 薄紅色をしただし巻き玉子が、特に。 |