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おとぎ話のお姫様のように、毎朝王子様のキスで目覚めている。

「おはようございます、聖羅さん」

「おはようございます、蔵人さん」

朝よりも夜の闇が似合いそうな私の王子様は、私の旦那様でもあった。
二人の左手の薬指に光る一対のリングが、これは幸せな夢などではなく、ちゃんと現実なのだと教えてくれている。

「今日も可愛いですね、貴女は」

「蔵人さんも素敵です」

優しく私を抱き締めた蔵人さんは、頬にキスをして腕の力を緩めた。柔らかく笑んだ切れ長の瞳を怖いと感じていたのはもう昔のこと。
いまでは彼無しの人生など考えられなかった。

「朝食はここに運んで来ましょうか?それとも、ダイニングで?」

「顔を洗ってからダイニングに行きます」

「では、用意しておきましょう」

蔵人さんはもう一度キスをしてから寝室を出て行った。キッチンに向かったのだ。
私も身支度を整えて行かなければ。

「あ、いい匂い」

トイレを済ませ、洗面所で顔を洗って、部屋着に着替えてから廊下に出ると、食欲をそそる良い匂いが漂ってきていた。
この家に移り住んでから、朝はいつもこんな感じだ。
情事の余韻を残したまま彼の腕の中で目覚めることもあれば、今日のように朝食の支度を終えてから起こしに来てくれることもある。

「ぎゅっ」

キッチンに立つ蔵人さんに後ろから抱きつくと、小さく笑う涼やかな声が降ってきた。

「私の奥さんは本当に可愛らしい方ですね」

水道で手を洗ってタオルで拭いた蔵人さん
が優しく頭を撫でてくれる。

「あまりにも可愛らしいので、食べてしまいたいくらいですよ」

甘やかし過ぎなのではと思うほど甘やかしてくれる蔵人さんのことが大好きだ。
ラブラブ過ぎて蛮ちゃんあたりが見ていたらゲエッと吐く真似をするかもしれない。
でもそこは新婚夫婦ということで許して欲しい。

「さあ、出来ましたよ」

「テーブルに運びますね」

蔵人さんと二人で料理をテーブルに並べていく。
カトラリーは既にセットされていた。
向かい合わせに座っていただきますをしてから食べ始める。

「ん〜、美味しい」

マカロニグラタンを吹き冷まして食べる。
今日も蔵人さんの料理は天才的に美味しかった。

「今日のご予定は?」

「午前中はぼちぼちお仕事をして、午後はお買い物に行こうかなと思っています」

「良いですね。私も一緒に行きましょう」

結婚して住まいを移るにあたり、以前の職場を辞め、リモートワークを主体とした企業に転職していた。
蔵人さんは仕事を辞めても構わないと言ってくれたけれど、私の希望で続けさせてもらったのだ。
いまはまだ経済面は全面的に蔵人さんに頼っているけど、せめて自分のお小遣いくらいは自分で稼ぎたい。

「デートですね」

「デートですよ」

食後の紅茶を飲みながら、今日のお買い物について話し合う。
夏物を見てみたいし、蔵人さんに似合う服も探したい。何を着ても涼しそうに見える人だから、選び甲斐があるだろう。楽しみだ。

こうして、私の一日は穏やかに始まる。


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