目が覚めると知らない部屋にいた。 何故か頭がくらくらしている。まるで強力な睡眠薬を飲んだ時のように。 それだけでも充分怖いのに、更に恐ろしいことに、ベッドの傍らには最強最悪の運び屋と名高い赤屍蔵人が座っていて、にこやかに微笑んでいた。 この状況で悲鳴をあげなかった自分を褒めてあげたい。 ……まあ、あまりの恐怖に声が出なかっただけなのだが。 「おはようございます、聖羅さん。気分はいかがですか」 「…………頭がくらくらします」 「ああ、まだ薬が残っているようですね」 「く、薬?」 「貴女を拉致した時に使った睡眠薬です」 「ひっ……!」 「明日はホワイトデーでしょう?誰か他の男からお返しを貰う前に貴女を攫ったのですよ。我ながら良い判断でした」 「ひえっ……!」 もう既にこの時点でビビりまくっていたのだが、赤屍さんはベッドサイドのテーブルの上に置かれていた食事らしきものが乗ったトレイを手に取り、自身の膝の上に乗せると、野菜がごろごろ入ったシチューをスプーンで掬い、差し出してきた。 「はい、あーん」 もちろん、食べるつもりなどなかった。 でも、悲鳴をあげようとして開けた口に素早くスプーンを突っ込まれてしまっては、食べるしかない。 もぐもぐと咀嚼する私を、何が楽しいのか赤屍さんは笑顔で見守っている。 なんとか飲み下すと、彼はまたスプーンを口元に運んできた。 もちろん、食べるつもりなどなかった。 でも、笑顔の圧に負けて、私は結局デザートまで全ての料理を完食してしまった。 どことも知れない場所に、殺人鬼と二人きり。 この状況で赤屍さんに逆らえる人がいたら見てみたい。絶対無理だから。 「食べましたね」 しかし、やはり食べてはいけなかったようだ。赤屍さんの歓喜に満ちた微笑みを見て私は悟った。どうやらとんでもない間違いをしでかしてしまったことを。 「な、何を入れたんですか?」 「ちょっとした隠し味を、ね……」 急に身体が痺れてきた……などということはなく、何の異常も感じられない。だからこそ、尚更恐ろしい。 一体、何が混入されていたのだろう。 「私からのホワイトデーのお返しですよ」 そう言って、赤屍さんは私の左手の薬指に銀色に光るリングを嵌めた。 抵抗する暇もなかった。 「これで貴女は私のものだ。もうどこにも逃げられませんよ。ここでずっと二人で暮らしましょうね。ずっと、永遠に……ね」 「ふ、ふえぇ……!」 |