目がチクチクして痛い。 長時間パソコンの画面を見ていたせいだとわかっているが、今日はいつにもまして忙しかったため、目薬をさしている暇もなかった。 その多忙な一日もようやく終わり、いまは自宅へ帰るべく愛車のハンドルにかじりついている。 「もう二度と休日出勤なんてしない」 何とか自宅まで辿り着き、車から降りながらぼやいてみるが、そうもいかないことはわかっていた。 繁忙期になればいまの比じゃないくらい忙しくなるし、後輩や同僚が重大なミスを犯した時には休みでもまたかり出されるに違いないからだ。 深くため息をつき、玄関の鍵を開ける。 電気をつけてパッと明るくなった室内に安堵しつつ部屋の奥へと歩いて行った。 とりあえず上着を脱ぎ、一日着ていたせいで重く感じるスーツも脱いでハンガーに掛ける。 ストッキングを脱いで素足に解放感を感じながら部屋着に着替え、冷蔵庫を開けた。 シチューの残りがあったのでレンジで温めることにし、パンを取り出す。 レンジにセットしたシチューが温まるまでテレビでも見よう麦茶を片手にリモコンを手に取る。 テレビがつくと、ちょうどバラエティ番組が終わってニュースが始まるところだった。 そうする内に、チンとレンジが鳴ったのでシチューを取りに行き、パンを咥えてシチューの皿をテーブルまで運ぶ。 よいしょ、とローソファに腰を降ろしたところで、背後に気配を感じた。 ベランダに誰かが立っている。 カーテンを閉めておいて良かった。 鍵もしっかり閉めてあるはずだ。 気配は依然としてそこにある。 鳥肌が立った腕を撫で、どうしようと考えた末に、私は行動に移した。 なるべく自然な様子を装おって玄関まで行き、そっとドアを開けて外に出て鍵を掛ける。 そうして車までダッシュした。 車に乗り込み、エンジンをかけようとして、車のキーが無いことに気がついた。 「うそ……」 顔面から血の気がひいていく。 慌ててあちこち探すが、見つからない。 その時、バックミラーに何かが映った。 「ひっ!」 暗闇に浮かび上がる白い顔。 切れ長の瞳は細められ、薄い唇は笑みの形に弧を描いている。 運び屋の赤屍蔵人が後部座席に座っていた。 声にならない悲鳴を迸らせる私に向かって、彼は手を伸ばしてきた。 その手の平には、探していた車のキーが。 「落とし物ですよ、お嬢さん」 |