諸事情により、学校に泊まることになってしまった。 保健室のベッドを使っていいからと言われたが、それはそれで怖い。だって、うちの学校には保健室にまつわる怪談があるし。 「かわいそうな聖羅」 「そう思うなら、友ちゃんも一緒に泊まってよお」 「だが断る」 「なんで!?」 「だって、うちの学校、保健室にまつわる怪談があるし」 「鬼か!!」 信じられない。今まで友人だと思っていた人物が実は鬼だった。 「煉獄さんに頸斬られちゃえ!」 「ありがとうございます。ご褒美です」 「あーん、だよねえ!」 ふざけている場合ではない。こっちは本気でヤバいのだ。 「まあまあ。最終下校時刻までまだ時間があるし、お茶でも飲んで落ち着いて来たら?」 あまりにも必死な私を見かねたのか、校医さんがそう宥めてくれた。 「それだ!!」 和室では確か今日、赤屍さんがお茶会をやることになっていたはずである。 私はすぐに和室に向かった。 何故か友ちゃんまでついて来た。 「赤屍さあん!」 「おやおや、どうしました?」 茶会の準備をしていた赤屍さんの腰に抱きついてえーんと泣き真似をすると、よしよしと頭を撫でてくれる。 和服の赤屍さんも美しい。 「この子、今日学校にお泊まりなんです。それでめっちゃビビってて」 「そうでしたか。それはかわいそうに」 一緒について来た友ちゃんの説明に、赤屍さんがまたよしよししてくれる。 「とりあえず、お茶でも飲んでいきませんか?制服のままでも参加出来ますよ」 「是非!」 いや、なんでお前が返事するんだよ友子。 こうして、私達はお茶会に参加することになったのだが、このお茶会、とにかく参加者が多かった。 9割女子なのは赤屍さん目当てだろう。 お茶会の準備をする赤屍さんを、きゃぴきゃぴ言いながら眺めている。 和室に一列に並んで座った私達に、赤屍さんは綺麗な所作でお茶を点ててくれた。 亭主である赤屍さんに近い人から順にお茶菓子が渡される。 私のところにも回ってきたので、美味しく頂いた。 次に同じ順番でお茶を飲んでいく。 私のところにも回ってきたので、受け取りながら挨拶をし、お茶を頂く前に、下座のほうに向かって「お先に失礼致します」と会釈をした。 右手でお茶碗を取り上げ、揃えた左手の平の上に置き、右手で時計回りに2回ほどお茶碗を回す。 まず一口飲み、その後はゆっくりと最後まで飲み干した。 だいたい三口くらいで飲み干せば大丈夫らしい。 飲み終わったお茶碗の飲み口を親指で軽く拭き、飲む前と逆の方向(反時計回り)に右手でお茶碗を回して、最初に出されたお茶碗の正面にあたる絵柄が自分とは反対に向くようにお茶碗を戻す。 飲み終わってしばらくすると、お茶碗を取りに来られて、次の人に順番が回っていった。 全員分終わったところで、私は忘れていた恐怖が徐々に喉元にせりあがってくるのを感じて青ざめた。 今まではお茶会の優美な空気に飲まれて恐怖心を忘れていられたのだ。 「大丈夫?」 友ちゃんが心配そうに尋ねてくるが、弱々しい笑顔を返すのが精一杯だった。 どうしても身体の震えが止まらない。 「お待たせしました。行きましょうか」 「えっ」 震える身体を不意に抱き上げられて、まだ和室に残っていた女生徒達がきゃーと甲高い声をあげる。 いつの間に着替えたのか、いつものスーツを着た赤屍さんに抱き上げられていた。 「今日のお泊まり、私が付き添いますよ。上にはもう許可を貰ってあります」 あんなに止まらなかった震えが止まっていた。 「何だかワクワクしますね」 「そうですね」 心の底から安堵しながら答える。 友ちゃんは羨ましくて仕方がない様子だったが、名残惜しそうに帰っていった。 この後、保健室に現れた怪異を赤屍さんがブラッディ・ハリケーンでやっつけてくれたのだが、長くなるので割愛させて頂きたい。 私と赤屍さんの仲が進展したかどうかは、二人だけの秘密。 |