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──ヤッてしまった。
いや、正確には半ば無理矢理ヤられてしまったのだが。
仲介屋の端くれとして、依頼人と裏稼業の人間とだけは深い仲になるまいと心に決めていたのに。

まだ隣で寝ている男を起こさないようにそっとベッドから抜け出そうとして、がくりと床に崩れ落ちてしまった。
脚……というか腰から下に全く力が入らない。

「おやおや」

「!」

眠っていたはずの男に片腕でさっと抱き上げられ、私は完全に固まってしまった。
私を抱き上げた男、運び屋の赤屍蔵人は、何が楽しいのか上機嫌でクスクス笑っている。
怖い。不気味だ。

「私から逃げようとするからですよ」

悪い子ですね、と耳に吹き込まれる。
昨夜散々恥ずかしいことを囁いてきた甘いテノールで。
ほぼ反射的にゾクゾクと寒気に似た何かが背筋を走り抜けた。

「おや、感じてしまいましたか?敏感な方だ」

「ヒッ」

「怖がらないで……ほら、バスルームまで連れて行ってあげましょう」

「い、いいですっ」

「でも、動けないのでしょう?」

悔しいがその通りだった。
いま立たされたら生まれたての小鹿みたいになってしまうことだろう。
だからと言って、お姫様抱っこで運ばれるのは恥ずかしすぎる。

「遠慮なさらず。私と貴女の仲ではありませんか」

「それ!」

「?」

「さ、昨夜のことは忘れて下さい。仕事もありますし、そのほうがお互いのためです。ビジネスライクで割りきりましょう」

出来るだけ冷静に話したつもりだが、何しろまだこんな状態だし、正直頭もバグったままなので、上手く伝えられたかどうか。

「……酷い人だ。あの甘やかな時間を忘れろなどと」

暫しの沈黙の後に発せられたのは、そんな恨みがましい言葉だった。

「ようやくこの腕の中に捕らえたと思ったのに……そんな酷いことを言う口は塞いでしまいましょう」

切れ長の目に睨まれて、ヒッと縮みあがったところで、がぶりと噛みつくようにキスをされた。

「あ……あ……ん、む……っ」

抱き上げられたまま口内を蹂躙され、唇を貪り尽くされる。
寝起きの身体を目覚めさせるには充分すぎるほど情熱的なキスだった。

「ふぇ……」

「泣かないで下さい。泣かせたいわけではありません」

そう言うと、赤屍はうってかわって優しく唇をついばんだ。
これではまるで恋人に駄々をこねている面倒な女のようだ。
実際には恋人などではなく、たった一夜限りの過ちだというのに。
しかし、私を抱いている男のほうは、そう考えてはいなかったようだ。

「もっと甘えて下さい。私達はもう恋人同士なのですから」

「ち、違……」

「それに、これから散々鳴いて頂くことになるのですから、いまからそれではもちませんよ」

「ばか、ばかバカ!そういうところが怖いんですよっ!」

それから、強制的にバスルームに連行された私は、洗うという名目で身体中隅々まで撫で回された挙げ句、昨夜出したものを掻き出すためと言われて赤屍の凶悪なものを挿入され、いやというほど『擦り洗い』をされたのだった。

その後、彼の作ったブランチを甲斐甲斐しく食べさせられたのだが、その頃にはすっかり遠い目になって諦めきっていたことは言うまでもない。


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