1/1 


最近あった事件らしい事件と言えば、実家にある兄の部屋を掃除していた時に、『槍トリアとヤリたいな』というタイトルのおっぱいボーン!なエロ同人誌が出てきて気まずい思いをしたことぐらいだろうか。

そんな平和な日常がいつまでも続くと信じきっていたのだ。
完全に油断していた。

「お父さん!お母さん!お兄ちゃん!」

床に倒れてぴくりとも動かない家族に駆け寄ろうとしたが、男が立ち塞がっているため、手が届かない。

「大丈夫、ただ気を失っているだけですよ」

この状況を作り出した人物である男を見上げる。

「赤屍さん…どうして」

それはゴールデンウィークを利用して実家に帰省していた時に起こった。

玄関のインターホンが鳴ったのは覚えている。
自分の部屋で寛いでいた私は、そのあと聞こえてきた話し声がぷつりと途切れたのが気になって居間に向かったのだが、その時にはもう母は倒れていて、続けざまに父と兄も倒れていくところを目撃したのだった。

本当にあっという間の出来事だった。

「貴女がいけないのですよ。いつまで経っても私の想いを受け入れて下さらないから」

赤屍さんは手に持ったメスをギラつかせながら言った。

「そんな…そのためにみんなを?」

「ええ、その通りです」

赤屍さんは近くに倒れていた兄にメスを近づけながら微笑んだ。

「私と一緒に来て下さいますよね。でなければどうなるか……おわかりでしょう?」

「っ」

私は後悔で頭がいっぱいだった。
暢気に漫画を読んでいた間に、死神は確実に家族へと忍び寄っていたのだ。
黒衣の運び屋という形をとって。

「…わかりました。一緒に行きます。だから…」

「ええ、貴女さえ手に入れば、ご家族には手出しは致しませんよ」

私は頷いて、差し伸べられた手に自分の手を重ねた。
その手を引き寄せられて抱き締められる。

「貴女を愛しています。心から。必ず幸せにしますから安心して下さい」

ごめんなさい

私は心の中で家族に謝ると、黒衣の魔人の腕の中で目を閉じた。

そこには真っ暗な闇だけが広がっていた。


  戻る  
1/1
- ナノ -