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待ち合わせの時間が近づいてくるにつれ、段々ドキドキしてきた。

「初めてのデートでもないのに緊張しすぎ」と仲の良い同僚にはからかわれてしまったけれど、赤屍さんと逢う時はいつでも初めてのデートのように緊張してしまう。
いざ逢ってしまえばリラックスして楽しめるのだが、こればかりはどうにも治らない。

「ねえ、どこかおかしくない?」

「大丈夫、可愛い可愛い」

メイクは一度落として最初からやり直した。
服装はオフィスでも通用するおとなしめのワンピースにファー付きのフェミニンなコート。
同僚には朝この格好を見ただけで今日デートなのだとバレてしまった。
そんなにわかりやすかっただろうか。
ちょっと恥ずかしい。

「じゃあ、また月曜日にね」

「お疲れ。楽しんできてね」

同僚と挨拶を交わしてロッカールームから出る。
ヤバい。めちゃくちゃドキドキしてる。

待ち合わせ場所に行くと、もう赤屍さんは先に着いていたみたいで待っていた。

「すみません!お待たせしました!」

「大丈夫です。まだ時間前ですよ」

私が待ちきれなくて早く来すぎてしまっただけですから、と赤屍さんは微笑んだ。
その美しさと言ったら、もう。
堪らず赤屍さんに抱きつく。
赤屍さんはそんな私を優しく抱き締めてくれた。

「今日も一日お疲れさまでした。お腹がすいたでしょう。先にディナーを済ませてしまいましょう」

「はい!」

赤屍さんが運転する車に乗って、いざみなとみらいへ。
ランドマークタワーの周辺は既にイルミネーションが輝いていた。
ホテルの駐車場に車を止めて、エレベーターでランドマークタワーの上まで一気に上がる。

スカイラウンジは金曜日の夜ということで、カップルの姿が多く見られた。
混んでいるから心配だったけど、赤屍さんは予約しておいてくれたらしくて、無事窓際のテーブルにつくことが出来た。

「まずは腹ごしらえですね!」

「ええ、そうですね」

運ばれてきたディナーコースの料理はどれもとても美味しかった。
それに何より、

「うわあ……綺麗!」

地上を彩る光の共演に、すっかり心を奪われてしまった。
青に赤、金色に白と、それぞれの光がお互いに引き立てあっていて、とても美しい。

「食べ終えたら少し歩きましょうか。どこか行きたい場所はありますか?」

「じゃあ、赤レンガ倉庫に行きたいです」

「良いですよ。では、お連れしましょう」

この時期、ランドマークタワーは白い雪につつまれた北欧の森をテーマにしたクリスマスイベントを展開しているそうだ。
雪が降り積もる森を表現した煌びやかなクリスマスツリーを、ランドマークプラザで眺めてから外に出ると、一段と寒さを増した海風が吹き付けてきた。

イルミネーションを観賞がてら、ドックヤードガーデンで北欧屋台を見て回り、クリスマスソングのステージに拍手を送る。

赤レンガ倉庫までは少し距離があるので、ディナーで暖まった身体はその間に冷えてしまっていた。
でも、繋いだ手はとてもあたたかい。

「赤屍さん、クレープ食べましょう!」

「先ほどデザートを食べたばかりでは?」

「甘いものは別腹なんです!」

二人してクレープを頼み、お互いのクレープを一口ずつ味見しあった。

「イルミネーションを見てると、もうすぐクリスマスなんだなって気持ちになります」

「あっという間の一年でしたね。クリスマスはどのようにして過ごしたいですか?」

「赤屍さんと二人きりで過ごしたいです」

「わかりました。私も同じことを考えていましたよ。貴女を独り占めしてしまいたい、とね」

ホットココアのカップを両手で包んで持っていたら、その上から赤屍さんの大きな手に包みこまれた。

見上げる先には、ちょっと怖いくらいの独占欲と深い愛情を湛えた眼差しと、甘やかな微笑を浮かべた端正な顔。

「愛していますよ、聖羅さん。貴女だけを、心から」


雪でもちらつきそうな寒空の下で交わしたキスは、甘いココアの味がした。


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