──天井から吊り下げられていた妹の上半身が無くなっている。 気にはなったが、先にボイラーだ。 地下室に向かった私は、じりじりと温度が上がりつつあったボイラーを最高温度に設定してから圧力弁を壊した。 これでこのボイラーは圧力が下がらなくなって爆発するはずだ。 急いで一階に戻ると同時に、足下にズンと振動が伝わってきた。 続いて、ドカンと後ろの床が爆発する。 たちまち辺りに炎が燃え広がっていった。 早く脱出しなくては。 火の手が上がる玄関ホールを突っ切ろうとした私の背中に、突然上から何かが降って来た。 「ひっ!?」 「お姉ちゃぁん」 それは屍人と化した妹の上半身だった。 私の背中におぶさり、首に腕を巻きつけてくる。 私は悲鳴をあげてソレを振り払った。 「お姉ちゃんだけ助かるなんてずるいよぉ……」 「ごめん……ごめんね」 許して、と泣きながら、燃える床を這いずって追い縋ろうとする『妹だったモノ』から逃げ出した。 ──ところで目が覚めた。 「起きましたか。気分はいかがです?」 「赤屍さん……」 発した声はびっくりするほど弱々しく、しゃがれていた。 何故私が寝込んでいることがわかったのだろう。 どうしてここにと聞こうとして、咳き込む。 喉が痛い。 赤屍さんがすかさずスポーツドリンクを飲ませてくれる。 「私は貴女の主治医ですから」 そう言った赤屍さんは、起きたのならちょうど良いと、私が着ていた服を脱がせて身体を拭いてくれた。 新しいパジャマに着替えさせてもらい、お粥をふうふうして食べさせてもらう。 食欲はなかったはずなのに、とても美味しく感じて土鍋の半分ほど食べてしまった。 「さあ、ゆっくり休んで下さい。眠って体力を回復しなければいけませんからね」 私に薬を飲ませた赤屍さんは、そのまま私を寝かせつけようとした。 しかし、脳裏に先ほどの悪夢がよみがえる。 私は赤屍さんの袖口をきゅっと握って、潤んだ瞳で赤屍さんを見上げた。 「さっき、怖い夢を見たから……」 「大丈夫、怖い夢はもう見ませんよ。私がついていますから」 赤屍さんが私の頬を手で包み込むように触れる。 「悪夢など、私がコマギレにして差し上げましょう」 いかにも赤屍さんらしい言葉に、私は笑って頷いた。 安心しきって目を閉じる。 赤屍さんが撫で撫でしてくれたのがわかった。 「おやすみなさい、聖羅さん。次に目が覚めた時には、良くなっていますからね」 |