1/1 


──天井から吊り下げられていた妹の上半身が無くなっている。

気にはなったが、先にボイラーだ。

地下室に向かった私は、じりじりと温度が上がりつつあったボイラーを最高温度に設定してから圧力弁を壊した。
これでこのボイラーは圧力が下がらなくなって爆発するはずだ。

急いで一階に戻ると同時に、足下にズンと振動が伝わってきた。
続いて、ドカンと後ろの床が爆発する。
たちまち辺りに炎が燃え広がっていった。

早く脱出しなくては。

火の手が上がる玄関ホールを突っ切ろうとした私の背中に、突然上から何かが降って来た。

「ひっ!?」

「お姉ちゃぁん」

それは屍人と化した妹の上半身だった。
私の背中におぶさり、首に腕を巻きつけてくる。

私は悲鳴をあげてソレを振り払った。

「お姉ちゃんだけ助かるなんてずるいよぉ……」

「ごめん……ごめんね」

許して、と泣きながら、燃える床を這いずって追い縋ろうとする『妹だったモノ』から逃げ出した。


──ところで目が覚めた。


「起きましたか。気分はいかがです?」

「赤屍さん……」

発した声はびっくりするほど弱々しく、しゃがれていた。
何故私が寝込んでいることがわかったのだろう。
どうしてここにと聞こうとして、咳き込む。
喉が痛い。
赤屍さんがすかさずスポーツドリンクを飲ませてくれる。

「私は貴女の主治医ですから」

そう言った赤屍さんは、起きたのならちょうど良いと、私が着ていた服を脱がせて身体を拭いてくれた。
新しいパジャマに着替えさせてもらい、お粥をふうふうして食べさせてもらう。
食欲はなかったはずなのに、とても美味しく感じて土鍋の半分ほど食べてしまった。

「さあ、ゆっくり休んで下さい。眠って体力を回復しなければいけませんからね」

私に薬を飲ませた赤屍さんは、そのまま私を寝かせつけようとした。
しかし、脳裏に先ほどの悪夢がよみがえる。

私は赤屍さんの袖口をきゅっと握って、潤んだ瞳で赤屍さんを見上げた。

「さっき、怖い夢を見たから……」

「大丈夫、怖い夢はもう見ませんよ。私がついていますから」

赤屍さんが私の頬を手で包み込むように触れる。

「悪夢など、私がコマギレにして差し上げましょう」

いかにも赤屍さんらしい言葉に、私は笑って頷いた。
安心しきって目を閉じる。
赤屍さんが撫で撫でしてくれたのがわかった。


「おやすみなさい、聖羅さん。次に目が覚めた時には、良くなっていますからね」


  戻る  
1/1
- ナノ -