予想通り、本部に入った途端に視線の集中砲火を浴びることになった。
私は真っ赤になって顔を伏せたが、私をおんぶしている風間さんは顔色ひとつ変えずに堂々と歩いていく。

「すみません、風間さん」

「気にするな」

それは無理というものです。
いや、私のせいなのだけど。

今日、学校が終わった後、私はいつものようにボーダー本部に向かっていた。
その途中で迷い犬を見つけ、怯えて逃げ出したその犬を追いかけていったところで、ちょうど門から現れたばかりのトリオン兵の一団と出くわしてしまったのである。
すぐに本部に救難信号を送ったが、間に合わず戦闘になってしまった。
トリオンが足りなくなり強制的に換装が解けるギリギリまで戦い、もうダメだというタイミングで本部から派遣された風間さんの部隊が颯爽と駆けつけてくれたのだった。

風間さんには無茶をしたことを怒られた。

それはもうビビって泣きそうになるくらいきつく叱られた。

そうして、ボロボロになった私を風間さんはおもむろに背負い、本部まで運んで来てくれたのだった。

探していた犬は歌川くんが保護して飼い主を探しに行ってくれた。ありがとうございます。

「風間さん、もう大丈夫です。医務室まで自分で歩けます」

「いいから大人しくしていろ。落とすぞ」

もういっそ落として下さいと言いたかったが、賢明にも私は口を閉じて、医務室に着くまで大人しくしていた。
怒っている風間さんはいつもの五割増しぐらい怖い。

医務室で手当てをしてもらう間、風間さんは椅子に座って手当てを受ける私の傍らに腕組みをして黙ってじっと立っていた。
たぶん、怪我の状態とかも後で報告しなければならないのだろう。
面倒をおかけして申し訳ありません。

「痛むか?」

「だ、大丈夫です。いだだ……!」

消毒液がめちゃくちゃしみて、全然大丈夫じゃない姿を見せてしまったせいか、風間さんの眉が僅かにつり上がる。
ごめんなさい。ごめんなさい。

全ての怪我の手当てを終えた先生は、電話で呼び出されて部屋を出て行ってしまった。

「悪かった。俺がもっと早く駆けつけていれば、こんな怪我をすることはなかったはずだ」

「そんな、風間さんのせいじゃありません」

「だが」

「助けに来て下さってありがとうございました。風間さんが来てくれた時、ああ、これでもう大丈夫だって、凄く安心しました」

本当に、心からそう思いながらお礼を述べる。

「それに、ワンちゃんも無事で良かったです」

「お前は……」

呆れたように風間さんがため息をつく。
そして、私のほうに身を屈めた。

──えっ?

「あまり心配させるな」

そっと頬を撫でられて、こくこくと頷く。
私の頭は完全に混乱状態にあった。

どうしてキスなんかしたんですか、風間さん。

あまりにも突然すぎる出来事に、怪我の痛みはどこかに飛んでいってしまった。


 戻る 



- ナノ -