蒼也くんとは大学の講義で隣に座ったことがきっかけで知り合った。
彼はボーダーの隊長を務めているため時々講義を欠席するのだが、休んでいた間のノートを貸してあげたら律義にもお礼がしたいと食事に誘われたので、一緒にお気に入りの洋食屋さんに食べに行ったのを機に、よく話すようになった。
と言っても、蒼也くんはあまりお喋りなほうではないので、いつも私があれこれと話して彼が相槌を打つ、という形になっている。
あまり一方的に話しても聞くほうはつまらないのではないかと心配になったのだが、

「好きな女の話がつまらないはずがないだろう」

と真顔で言われて、大層びっくりしたのを覚えている。

「風間くんは私のこと好きなの?」

「好きだ」

蒼也くんは顔色を変えもせずに言い切った。

「入学式で見かけて以来だから、かれこれ──」

「えっ、えっ?そんなに前から!?」

「そうだ。隣の席をキープするようにしていたのも、ノートを借りた礼に食事に誘ったのも、お前が好きだからだ。お前は全く気付いていなかったようだが」

「全然気がつかなかった……」

「そんなところも含めて可愛いから問題ない。何かあれば俺がフォローする」

だから付き合ってくれ、と言われて二つ返事で承諾した。
私も蒼也くんのことが大好きだったから。
『隣の席の気になる彼』のことがいつの間にかこんなにも好きになっていたのは、まるで魔法にでもかかってしまったかのような不思議な気持ちだった。
でも、蒼也くんはとても男らしくて格好いい魅力的な男の子だから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

「今日は午後から本部だよね」

「ああ。ミーティングが終わったら迎えに行く」

「ボーダーのお仕事がある時はいいよ」

「駄目だ。迎えに行くからちゃんと待っていろ」

「うん、ごめんね」

「謝らなくていい。お前を守るのは男として当然のことだ」

「ありがとう、蒼也くん」

私は週に三日だけ大学が終わった後に居酒屋でアルバイトをしている。
居酒屋で働くことに蒼也くんは難色を示していたが、お給料がいいので何とか説得して渋々ながらも認めてもらった。
何故お金が必要かというと、卒業したら蒼也くんと結婚する約束をしているからだ。
いわゆる結婚資金を貯めているのである。
ボーダー本部所属のA級部隊の隊長ともなると、それなりに良いお給金をもらっている蒼也くんだが、それにおんぶに抱っこというわけにはいかない。
これは私なりのケジメだ。
それでなくとも蒼也くんには結婚後は俺が養うと宣言されているので、せめて結婚式の費用くらいは折半させてほしいというのが私の希望だった。

「酔っ払いに絡まれたらすぐ店長に言え。俺から店長には頼んであるから心配ない」

「蒼也くんは過保護だなあ」

「過保護なものか。好きな女の心配をして何が悪い」

「おーおー、昼間っからお熱いことで」

通りすがりに文字通り酔っ払いみたいな絡み方をしてきたのは太刀川くんだ。
ランチのトレイを手に、ニヤニヤしている。

「あの風間蒼也を落とした凄ぇ女だってボーダーで噂されてるぜ、なまえさん」

「太刀川くんはまたレポート出し忘れそうって噂されてるよ」

「マジかよ……本気で忘れてたわ」

そう言うわりにはあまり悲壮感がない。
レポート出し忘れるのに慣れちゃダメだよ太刀川くん。

「太刀川、お前」

「おっと、お邪魔しましたあ!」

蒼也くんに睨まれて、太刀川くんはそそくさと立ち去った。
離れたところで片手を挙げて声を張り上げる。

「また飲みに行きましょうね!今度はなまえさんも一緒に!」

「わかったから、まずはレポートを仕上げろ」

しっかり釘を刺す蒼也くんは本当に面倒見がいい。
一見冷たそうに見えるけど、実は懐が深くて面倒見がいい蒼也くんのことが大好きだ。
太刀川くんが誰か知り合いを捕まえて話しているのを確認した蒼也くんが私に向き直る。

「今日は泊まってもいいか」

「うん、もちろん」

答えながら、顔が赤くなっていないか気になった。
蒼也くんが私の部屋にお泊まりするのは、つまり、そういうことなわけで。期待しているのかと言われれば、もちろんそうなので。

「顔が赤いな」

「そ、そう?」

「期待に応えられるよう努力しよう。時間的に二回もすれば満足させられるか?」

「蒼也くんの意地悪……!」

真面目な顔でえっちなこと言うの禁止!


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