「あのワンピース可愛い」

「どれ?」

「右端のオフホワイトの」

「あー、あれか。ティアードのやつな」

それは何気ない会話だった。
忙しい合間を縫ってのデート中、偶然通りがかったブティックのショウウインドウに飾られていたマネキンが着ていたワンピースがとても好みだったので、思わず口をついて出た言葉を隆くんが拾ってくれて。
彼の視線がガラス越しにそのワンピースに注がれる。

「ああいうの好き?」

「うん、可愛いよね」

それからすぐ違う話題に移ったから、それで終わったと思っていたのだ。
次に隆くんの家に遊びに行った時、採寸用のメジャーであちこち身体のサイズを測られるまでは。

「た、隆くん?」

「ん?ワンピース欲しいんだろ?作ってやるよ」

買ってやるではなく作ってやるよとなるあたり、さすが手芸部部長。
デザインにかける情熱は中学の時から変わらない。
高校生になったいまも目標に向かって日々努力を怠らない彼は本当に凄いと思う。

「型紙から起こすからちょっと時間かかるけど、いいか?」

「作って貰うのに文句なんか言わないよ」

「むしろもっとわがままを言ってくれ。もっとオレに甘えろよ」

ぽんぽんと頭を優しく叩かれる。
普段から妹達の世話をしているだけあって、隆くんは凄く面倒見がいい。頼りになるお兄ちゃんという感じだ。
だからつい甘えてしまうのだが、それが負担になっていないか心配だった。

「もう充分甘えてるよ」

「いいや、まだだね。全然甘やかし足りねえよ」

胡座をかいて座った隆くんの膝の上に抱き上げられる。
細身だけどちゃんと筋肉がついている隆くんの身体はあたたかく、私よりも身長が高いから、こうして抱き締められるとすっぽりと彼の腕の中に収まってしまう。

「可愛い」

隆くんの手が繊細なレースを扱うように優しく私の髪を撫でた。
この手がとても器用に動いて様々な作品を生み出すことを私は知っている。
未来のデザイナーの手だ。

「お前のためなら何でもしてやれる」

隆くんのほうに顔を向けると、ちゅ、と優しいキスが降ってきた。
ずっと身に付けている左耳のピアスが光を反射して煌めく。
ちゅ、ちゅ、と額や頬にキスを落とされ、くすぐったさに身をよじると、逃がさないとばかりにぎゅっと抱き締められた。

「コラ、逃げんな」

「んん、くすぐったい」

キスをしながら、隆くんの大きな手が指を絡め合うようにして私の手をしっかりと握り込む。

「お前が着る服は出来れば全部オレが作ってやりたいけど、学生の身分じゃそうもいかないからな」

「エッ」

「オレがデザイナーになってからのお楽しみってやつな」

隆くんは白い歯を覗かせて悪戯っぽく笑ってみせた。
中学の頃に比べて襟足が長く伸びて、身体つきも大人っぽく男らしくなった隆くんだが、笑顔はやんちゃな男の子の頃の面影が残っていて可愛い。
単純な私はそのギャップにメロメロになってしまうのだった。

「将来的には、お前のクローゼットをオレが作った服で埋め尽くしてやるよ」

「それって、もしかして、下着も?」

「とーぜん。しっかりデザイン勉強しとくから期待してくれていいぜ」

「さすがに下着はいいよぉ」

「遠慮するなって」

「そうじゃなくてね……」

「セックスの時、自分が作った服と下着を自分の手で脱がすのって燃えるだろ?」

「隆くんのえっち!」


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