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※トリップ


夜半に降りはじめた雨は、明け方には雪へと姿を変えていた。
道理で冷え込むはずだ。

暖房が当たり前のようにあった現代の生活に慣れた身体は、この時代の日本家屋の底冷えのする寒さに悲鳴を上げている。

冷たい廊下を忍び足で自分の部屋まで戻り、障子に手をかけたところで、あらぬ場所から太ももへと生暖かい体液が伝い落ちたのを感じてギクリと身体が固まった。

昨夜、義勇さんにたっぷり中に出されたもの。
それが動いた拍子に溢れ出したのだろう。

何とかしなければならないが、洗おうにもお湯がない。
水瓶の冷たい水を使うという選択肢はなかった。
本気で風邪をひきかねない。

とりあえず、いまはそのことは考えないようにして、部屋に戻って来た目的を果たすことにした。

この時代にタイムスリップした時に持っていたバッグの中から、目当てのものを取り出す。
そうして立ち上がったところで、廊下を急いで走って来たらしい義勇さんが部屋に飛び込んできた。

珍しく焦った様子の義勇さんは、おもむろに私を引き寄せると、きつく抱き締めてきた。

「……帰ってしまったのかと思った」

そう言って、安堵の溜め息をつく。

「大丈夫です。お別れも言わずに突然消えたりしません」

たぶん、とは口に出せない。
義勇さんの心臓が早鐘を打つようにドクドクと鳴っているのがわかったから。

「あまり心配させるな」

「ごめんなさい」

義勇さんのあたたかい身体に包まれていると、先ほどまで感じていた寒さが和らいだような気がした。

「これを取りに戻っていたんです」

そう言って一口チョコのお徳用袋を差し出す。
お世話になったしのぶさんや蝶屋敷の子達に分けてあげたので、残りは僅かだ。
本当はちゃんとしたチョコを渡したかったのだが仕方ない。

「今日はバレンタインだから」

怪訝そうな顔をする義勇さんに、簡単に説明する。

「好きな人にチョコレートをあげる日なんです」

個別包装紙からチョコを取り出して義勇さんの口元へと運ぶ。

「私の気持ちです」

義勇さんはちょっと困ったようだったが、ちゃんと口を開けて食べてくれた。

「義勇さん、大好き」

そう告げた唇を奪われる。
重ねられた唇の間から、ぬるりと侵入してきた舌に口内を舐められ、舌と舌を絡め合わされて、あっという間に体温が上がった。
チョコ味のキスは媚薬の効果もあるのだろうか。

「ふ……んん、…んく」

義勇さんの手が浴衣の中に入り込み、肌の上を彷徨う。
硬く大きな手の平が直接素肌を愛撫していく。

突然の浮遊感。
ようやく口が離されたと思ったら、不意に義勇さんに抱き上げられた。

「戻るぞ」

短く告げた義勇さんが私を抱えたまま歩き出す。
戻るとは、義勇さんの部屋へということなのだろうが、ちょっと待って欲しい。

「もう朝ですよ、義勇さん」

「今日は休みを貰ってある」

「でも、ちょっと、あの……困るなあって」

「何故だ」

「だって……義勇さん、中に出すんだもん」

「俺の子を孕むのは嫌か」

「赤ちゃん出来たら、おうちに帰れなくなっちゃう……」

「そうか」

義勇さんの顔を見上げると、驚いたことに彼は薄く微笑んでいた。
綺麗だけれど、どこか背筋が寒くなるような微笑だ。

「俺の子を孕めば、お前は俺から離れずにいてくれるのだな」

「そ、それは……」

そうする内にいつの間にか義勇さんの部屋に着いていた。

そっと布団の上に降ろされ、上から義勇さんが覆い被さってくる。

「帰らなければいい。ここに、俺の傍にいてくれ」

「義勇さん……」

「愛している、なまえ」

「あっ、あっ、だめっ……」

そして、今日も私は流されてしまうのだ。

駄目だ駄目だとわかっていても、もうこの孤独な人から離れられそうもない。

例え、二度と元の時代に帰れないとしても。


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