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霞のように掴みどころがなくて、澄んだ氷のような透明感のある美少年。
それが、時透無一郎くんに助けられた時の第一印象だった。

そのままお館様と呼ばれている偉い人の所へ連れて行かれた私は、驚きの真実を知ることとなる。
なんと私は令和から大正時代にタイムスリップしてしまったらしい。

私を襲った化け物のこと。
その化け物──鬼を狩る鬼殺隊のこと。

彼らから説明を受けた私は、恐ろしい時代に来てしまったものだと震えあがった。

先を視る力を持つお館様は、今日あの場所に「先の世から神隠しに遭った女人が現れる」という予感があり、無一郎くんを差し向けたのだそうだ。

それ以来、私は無一郎くんのお屋敷にお世話になっている。

衣食住の面倒を見てもらっているので、せめて家事くらいはと、お手伝いさんに色々なことを教わりながら懸命に働く毎日だ。

しかし、である。
鬼殺隊の柱という立派な立場の無一郎くんではあるが、彼はまだ14歳になったばかりの少年だ。
あまりにも年若い彼にずっとお世話になりっぱなしというのはいくらなんでも申し訳がない。
お館様に相談して働き口を紹介してもらえないだろうか。

「ここを出て行きたいって?」

「えっと、はい」

「何が不満なの」

「いや、不満はないんだけど、ね」

「僕のことが嫌いになった?」

無一郎くんが長い睫毛を震わせ、綺麗な瞳を揺らせて悲しげな顔をするものだから、私は焦って首を振った。

「そ、そんなことないよ!」

「じゃあ、どうして?」

「それは……」

私はこれまでずっと悩んできたことを打ち明けた。
それに対する無一郎くんの答えは実にあっさりしたものだった。

「なんだ。そんなことで悩んでたの」

くだらない、と一蹴されてしまった。

「なまえは今まで通りこの屋敷で暮らすこと。これは決定事項だ。反論は許さない」

屋敷の主であり、命の恩人である無一郎くんにそこまできっぱり言いきられてしまっては仕方がない。
私は渋々頷いた。

「じゃあ、この話は終わりだね。なまえ、寝るから膝を貸して」

「お布団敷こうか?」

「いや、いいよ。なまえの膝枕がいい」

「私の膝で良ければどうぞ」

「ん」

ころんと寝っ転がった無一郎くんが私の膝枕に頭を乗せる。
そのまま気持ち良さそうに目を閉じたので、私は彼の長い髪を指で梳いて耳にかけてあげた。

刀鍛冶の里から帰ってきてから無一郎くんは変わった。
前はもっとふわふわと掴みどころのないイメージだったのが、確かな意思を持って何事にも取り組むようになっていた。
やはり記憶を取り戻したからだろうかと、ますます凛々しさが増した感じがする端正な顔立ちを眺めながら思う。

その無一郎くんが、ふっと目を開けて私を見上げ、気を緩めたように柔らかく微笑んだ。

「ねえ、なまえ」

「うん?」

「祝言はいつにする?」

「えっ」


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