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「こっちにおいで」

縁側にお姿を見つけたと思ったら、声をおかけする前に気付かれてしまった。
そんな風に優しく招かれては踵を返すわけにもいかない。
悪戯を見つかった子供のような面持ちでお側まで行くと、杏寿郎さまは笑って隣に座るよう私に促した。

「少し痩せたな」

「そうでしょうか。自分ではよくわかりません」

「ちゃんと食事は食べているか」

「実はあまり……食欲がなくて」

「それはいけない。何か食べられそうなものがあれば遠慮なく言ってくれ。用意させよう」

「ありがとうございます」

本当にお優しい方だ。長らく煉獄家にお仕えしている一族の娘で幼い頃から共に育ってきたというだけで、私のような者までこうして気にかけて下さる、心根の優しいお方なのだ。
その杏寿郎さまがそっと私の手を取った。
荒れていて恥ずかしいので、慌てて手を引こうとしたのだが、杏寿郎さまは離して下さらない。それどころか、両手でがっしりと包み込むようにされてしまった。

「なまえ。俺と夫婦になろう」

杏寿郎さまの目が、ひたと私を見据えている。
ほんの一瞬、私の密かな恋心を知られてしまったのかと思ったが、違ったようだ。
杏寿郎さまの瞳の中にも同じ炎が揺れていることに気付いてしまったから。

「初めて会った時から決めていた。妻を娶るのならば、君しかいないと」

卵から雛を孵すように大事にあたためてきた想いだった。それがいま思いがけず実を結ぼうとしている。
でも、私の心を埋め尽くしていたのは喜びだけではなかった。

「でも、槇寿郎さまが……」

「父上には昨夜の内に許しを頂いてある」

「えっ」

「亡き母によく尽くしてくれた君ならばと許して下さった。あとは君の胸一つだ。なまえ」

「わ、私は……」

頬が紅潮していくのがわかる。
その反応を返事と受け取ったのか、杏寿郎さまはにっこりと微笑まれた。

「ありがとう!必ず幸せになろう!」

「はい……はい、杏寿郎さま」

ところで、と杏寿郎さまが穏やかな声音でとんでもないことを仰せになられた。

「君は子供は何人欲しい?俺は最低でも男女一人ずつは欲しいのだが」


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