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つい先日まで寒い寒いと言っていたのが嘘のように、あっという間に春はやって来た。
春の陽気とは良く言ったもので、ここ数日はうっかりするとうたた寝してしまいそうになるくらいとても暖かい。
と思っていたら、杏寿郎さんが縁側に座ったまま眠っているのを見つけた。
起こしてしまうのもかわいそうなので、そっと羽織を掛けてあげると、静かに目が開いて「むう……」と唸った。

「よもやよもやだ。うたた寝してしまうとは!」

「お疲れだったのですよ。まだ眠っていらして良かったのに」

「みっともないとは思わなかっただろうか」

「そんなことを思うはずがありません。むしろ嬉しかったです」

焔の色をした瞳が不思議そうに瞬いたので、私は杏寿郎さんの隣に座ってその目を見つめ返した。

「だって、それくらい安心して下さっているということでしょう?私の側にいらっしゃる時くらいは気を抜いて甘えて下さって良いのですよ」

「そうか……そうだな」

杏寿郎さんが穏やかな表情で笑った。

「では、甘えついでに膝枕をしてもらっても構わないだろうか?」

「はい、喜んで」

「では、失礼する!」

私の膝に頭を乗せて横になった杏寿郎さんの髪を優しく梳く。

「いかがですか?」

「うむ、幼子に戻ったようで気恥ずかしくもあるが、それ以上に心地よくて、このまま眠ってしまいそうだ」

「どうぞ眠って下さい。何かあったら起こしますから、それまでゆっくりお休みになって」

「ありがとう。そうさせて貰おう」

大人しく目を閉じた杏寿郎さんは、いつもより少しだけ幼く見えた。早くにお母さまを亡くされているから、あまり人に甘えることが出来なかったのではないだろうかと常々思っていたので、こうした機会が持てたことはちょうど良かった。
今までずっと頑張ってきたこの人を支えてあげたい、甘えさせてあげたいと心から思う。

そうするうちに杏寿郎さんは眠ってしまったようだった。特徴的な呼吸の仕方。眠っている時も全集中の呼吸のままなのはさすがである。鬼殺隊を支える柱の一人、炎柱なのだから当然と言えば当然かもしれない。
だけど、どうか今だけは優しい夢の中にいてほしかった。

「おやすみなさい、杏寿郎さん」


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