目を覚ますと、見慣れない天井が目に入った。

「ここは…」

気を失う前の状況を思い出し、はっとして身体を起こそうとしたが、何かに遮られてそれは適わなかった。

「なまえ…?」

なまえが寝ている彼の傍らに座っていて、ベッドに顔を伏せてぐったりとしている。

「寝かせておいてやれ。君が担ぎ込まれてからずっと眠らずに看病していたんだ」

「…赤井秀一」

景光の件で誤解は解けたとは言え、まだ完全にわだかまりが消えたわけではない。
苦いものが込み上げてくるのを感じながら、降谷は、入口近くの壁に背を凭れて腕を組んでいる赤井に目を向けた。

「もっと嬉しそうにしたらどうだ、降谷くん。組織は壊滅に追い込んだ。これで元の『降谷零』に戻れるだろう」

そうだ。

ついに例の組織を壊滅状態にまで追い込むことが出来たのだ。
その際のいざこざで怪我を負った彼は、満身創痍の状態で警察病院に担ぎ込まれたのだった。
赤井秀一の手によって。

「礼を言うべきなんでしょうね。なまえに知らせたのもあなたなんでしょう」

「ああ、ずっと君を心配していたのを知っていたからな。真っ先に連絡した」

降谷は苦々しい顔つきになったが、「ありがとうございました」と何とか声を絞り出した。
それから、ずっと自分の側にいてくれたのだと知って、なまえに対する愛情がこみ上げてくるのを感じていた。

今まで自分は『安室透』を演じてきた。

そんな自分を、全てを理解した上で支えてくれていたのがなまえだった。
彼女には感謝と深い愛情を捧げているが、それでも足りないくらいに愛おしい。

「目が覚めたら、今まで出来なかった分も甘やかしてやるといい」

「言われずともそうするつもりです」

赤井はふっと笑うと、何かの瓶を取り出し、降谷に向かって放り投げた。
危なげなくそれを片手で受け止めた降谷は、それがスコッチウイスキーであることに気がついた。

「組織を壊滅させることが出来たら、君と飲みたいと思っていた」

怪我人の身体に障るかもしれんが、と笑った赤井を眺め、降谷はスコッチの瓶に視線を戻した。

「今は亡き、戦友に」

赤井の言葉に僅かに顔を歪めつつも、降谷は一気にスコッチを煽った。

「いい飲みっぷりだ」

からかっているのか感心しているのか。
とりあえず降谷はスコッチの瓶を赤井に投げ返した。
受け止めた赤井が同じようにスコッチを煽るのを見て、ここに親友がいたなら、と少しだけ感傷的になったが、すぐに気持ちを切り替えた。

「まだ終わったわけじゃない」

「ああ、残党が残っている」

赤井が応じる。

「だが、心配はいらんよ。俺達がいる」

「これからは、あなたと僕で」

決意を秘めた眼差しで赤井を見ると、彼も同じ思いであることがわかった。

──ごめん、まだもう少しかかりそうだ

なまえの髪を優しく撫でつける。
ん…と声を漏らしたなまえが顔を上げたのを見て、降谷はそっと頬を緩めた。

全てが終わったら、その時は、必ず。


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