今日は定期健診の日だ。

お知らせのハガキを貰った私はかかりつけの歯科医である尾形先生に診て貰っている最中だった。

「…よし。今のところ虫歯はないな。歯磨きも頑張っているのか、よく磨けてるじゃねえか」

私の口の中を一通り検分したあと、尾形先生は言った。

楽にしていいと言われたので口を閉じる。
すると、唇に柔らかいものが触れた。

「尾形先生、悪戯したらダメです」

「本気ならいいのか?」

「もっとダメです」

患者さんに手を出すなんて、とんでもない歯医者さんだ。

「いい加減、素直になれよ。俺のものになれ」

「だって、先生怖いんだもん」

「怖くねえだろ。こんなに優しくしてやってるのに」

目を開けて尾形先生を見ると、ニヤニヤ笑っていた。

この人、本当に男前だな。

いつもはマスクと眼鏡をしているからあまり気にしていなかったのだが、今は眼鏡もマスクも外していて、男らしい顔立ちが露になっている。
顎髭は綺麗に整えられていて、とても清潔そうだ。
実際、歯医者さんなのだから清潔には気を遣っているのだろう。

「なあ、飯食いに行こうぜ」

「それって…」

「デートに誘ってんだよ。言わせるな」

「先生の嫌いな食べ物教えてくれたらいいですよ」

「…椎茸だ。それがどうかしたのか?」

「今度ご飯作ってあげる時にみじん切りにした椎茸混ぜてあげますね」

「ははッ、ひでえ女だな」

先生と一緒に食べに行ったあんこう鍋はとても美味しかった。


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