ホグワーツでは、朝食はパン、コーンフレーク、オートミール、卵料理、ベーコン、キッパーなどから好きなものを選んで食べることになっている。
朝食の時間になると、各寮から生徒達が大広間にやって来て、それぞれの寮のテーブルについて食べ始めるのだ。

ちなみに、キッパーとはニシンの燻製のことだが、この国の魚料理特有の生臭さがないので私でも食べられる。

飲み物はかぼちゃジュースとオレンジジュースがあり、これも好きなほうを選んで好きなだけ飲めるのでありがたい。

そうした朝食の内容自体はいつも通りなのだが、今日は生徒達の様子がちょっと違っていた。
皆、そわそわと落ち着きがなく、何かを待っているようでもある。
その理由は梟便が届き始めるとわかった。

「見て!カードが届いたわ!」

「私にもよ。誰からかしら」

焼きたてのもっちりしたパンを食べながら、なるほどと私は思った。
皆、バレンタインのカードや贈り物が届くのを待っていたのだ。


「なまえ」


すっかり聞き慣れた声に甘く名前を呼ばれて、ギクリと身体が強張る。

恐る恐る振り返ると、トム・リドルがハンサムな顔に魅力的な笑みを浮かべて立っていた。
その手には真紅の薔薇の花束。

大広間の中にざわめきが走った。
皆の視線が集中しているのを感じて冷や汗が出る。

「おはよう」

「お…おはようございます…」

「バレンタインの贈り物を受け取ってくれるかい?」

これは罠だ。

わざと皆の前で渡すことで私に断らせないようにしているのだ。

なんて恐ろしい男だろう。

濃密な薔薇の香りに包まれながら私は震えあがった。

「なまえ?」

小首を傾げて私に返事を促す彼は、天使のような微笑みを浮かべているが、間違いなく悪魔だ。
まさか断ったりしないだろう?という無言の圧力を感じる。

「ありがとう…ございます」

圧力に屈した私が花束を受け取ると、彼は優雅な仕草でカードを手渡してきた。
そうして、近づいてくる端正な顔。

「僕がたった一人愛する君へ」

きゃーっと悲鳴が上がるのをどこか遠く感じながら私はリドルのキスを受け入れた。

「続きは必要の部屋で」

耳元で素早く囁いたリドルが身を話して歩いて行く。
彼の姿が見えなくなったと同時にどっと汗が吹き出てきた。

誰か、助けて…!


  戻る  



- ナノ -