大きめのおむすびを四つ。中身は鮭と梅にした。
それに鳥の唐揚げとゴボウのサラダ、脳吸い鳥の卵を血の池地獄で温泉卵にしたものを添えて、風呂敷で包む。

着物は白地に牡丹の柄のものを選んだ。
勝負服というほどではないが、手持ちの中で一番値が張ったとっておきなので。
髪もいつもより凝った形のまとめ髪にして牡丹の飾りを挿した。
これでよし。

風呂敷を抱えて、カカオ投げが始まる前にと早めに出勤すれば、もうちらほらと行き来する鬼の姿が見えた。
もちろん、鬼灯さまも既に出勤されている。

「おはようございます」

「おはようございます、なまえさん。今日は随分お粧ししていますね」

「そ、そうですか?」

「気合いが入っているのはやはりバレンタインだからでしょうか」

「うっ…」

さすが鬼灯さま。
相変わらず鋭いお方だ。

私は周囲に誰もいないのを確認してから、鬼灯さまに風呂敷包みを渡した。

「鬼灯さま、どうぞ召し上がって下さい」

「チョコですか?」

「いえ、おむすびとおかずです」

「チョコはどうしたんです」

「えっ」

「貴女からチョコを貰えるのを待っていたのに」

「ええっ」

「さあ、早く出しなさい」

「わ、わかりました」

お弁当で誤魔化すつもりだったのに、鬼灯さまは容赦がない。
念のためにと用意していおいたチョコをおずおずと差し出す。

「手作りじゃないんですか」

鬼灯さまは何故か不満そうなお顔をなさっているが、桃源郷で買った高級品だ。
どうせ渡せないだろうと思っていたので、あとで自分で食べるつもりだったそれを、鬼灯さまは受け取ってすぐ包装を解いて中身を取り出した。

「いただきます」

赤いハート型のチョコを指で摘まんで口に放り込む。

「ふむ…これは、なかなか」

満足して頂けたようなのでほっとした。

「一応、及第点ですね。後日改めて手作りのものを持ってきて下さい」

「ええ…」

「本命チョコは手作りが定番でしょう」

「ほ、本命チョコ…!」

「違うのですか?」

「…違いません」

悔しい。鬼灯さまの手の平の上で踊らされている気分だ。

「悔しがっている貴女も可愛いですよ。そうでなくては」

鬼灯さまはまた一つチョコを摘まみながらいたぶるような口調でおっしゃった。

「ただ素直なだけの女性よりも私好みです。調教のし甲斐がある」

「ひぇ…!」

この方、ドSだ。
わかっていたけど。

「とりあえず、このお弁当はお昼に頂くとして、今夜部屋に伺います」

「えっ」

「想いが通じ合った者同士、組んずほぐれつまぐわいましょう」

「ふえぇ…!」

思わず後退ってしまった私の前で、鬼灯さまは涼しいお顔でチョコをもぐもぐ咀嚼していた。

もう冗談なのか本気なのかわかりません、鬼灯さま!


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