──頭痛が痛い。
思わず日本語がバグってしまうほど頭が痛い。ガンガンしている。
明らかな二日酔いの症状に、昨日そんなに飲んだかなと内心首を傾げながら目を開ける。
その途端、飛び込んできた光景に心臓が止まりそうになった。
至近距離にあるのは、見知った男の寝顔。
綺麗に整ったその顔は幼なじみの冨岡義勇のもので間違いない。
でも、なんで義勇が隣で寝てるの?
どうして私達、服着てないの?

「…………ん…………」

背後から聞こえてきた吐息混じりの小さな呻き声にギクリと身体が強張る。
よく見れば、右向きに寝ている私の身体には二人分の腕・・・・・が巻き付いていた。
正面からは義勇の腕が。
では、後ろから私を拘束しているこの腕は誰のものなのか。
不自由な体勢から身を捩り何とか後ろを見ると、そこにはこれまた見知った男の寝顔があった。
もう一人の幼なじみである錆兎だ。
右の口元から頬にかけて走る傷痕も、宍色の髪も、その精悍な顔立ちも間違いなく彼のものだった。

でも、なんで、どうして、と頭がぐるぐるする。

「起きていたのか」

いつの間にか義勇が目を開けていた。
湖水の色をした双眸が私を見つめている。

「おはよう」

「お、おはよう」

「身体は大丈夫か?」

これは錆兎の声。
彼もまた目を覚ましていたらしい。

「すまない。昨日は無理をさせたな」

身体に巻き付いていた腕が動いて、労るように私の髪を優しく撫でつける。

「あの、私どうして……」

「……覚えていないのか?」

不義理をなじるような口調に、焦った私は必死に頭をフル回転させて記憶を辿った。


昨日はバレンタインだった。

義勇と錆兎にチョコを渡して、お洒落なダイニングバーで三人で乾杯したところまでは覚えている。
でも、それ以降の記憶がない。


「昨日、俺達はお前に告白した」

「えっ」

「お前が二人とも同じくらい好きで選べないと言うから」

「えっ?」

「だから、三人でシたんだ」

「ええっ!?」

「お前もだが、俺達も大概酔っていたからな。無防備なお前を前にして歯止めがきかなかった」

後始末はしたが、それが限界で、三人仲良く寝入ってしまったということらしい。

「なんで三人でしちゃうの……」

シーツに突っ伏した私の上で、気まずそうな空気が流れる。

「俺も義勇も、どちらもお前を譲れなかった」

「諦めきれなかった」

「だからって……」

「責任はとる」

錆兎が男らしく、きっぱりと宣言した。

「俺か義勇か、お前の好きなほうと籍を入れよう。三人で住む家も用意する。お前は何も心配しなくていい」

「出来れば、子供は二人。俺の子と錆兎の子、それぞれ一人ずつ産んで欲しい」

「無茶言わないでよぉ……」

「?俺は何かおかしなことを言ったか?」

ヤバい。義勇は真剣だ。
私が二人の赤ちゃんを産むことを欠片も疑っていない。
いつもはわりと常識人なのに、天然なのか何なのか、こういう時に急にポンコツになるのはどうしてなの。

「そろそろ時間だ。先になまえとシャワーを浴びてくる」

「わかった。なまえは任せる」

錆兎がぐったりしている私を軽々と抱き上げた。
そのまま浴室に歩いていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんだ?義勇のほうが良かったか?」

「そうじゃなくて!一人で入れるから!」

「却下だ。お前、まともに立てないだろう」

確かに、脚腰は痛いし、身体に力が入らない。

「洗ってやるから大人しくしろ」

錆兎が私の額にキスを落とす。

「大丈夫だ。優しくする」

愛おしくて堪らないというような、甘い声にびっくりして身体が固まった。
間近で目にした優しい笑顔に胸がドキドキと高鳴る。

「錆兎、抜け駆けは無しだ」

「わかっている。洗ってやるだけだ」

いや、わからないよ。全然まったくわからない。
抜け駆けってなに?
私はもう二人のもの決定なの?

浴室で錆兎に洗われながら一生懸命考えてみたけれど、どうにもこの二人から逃げ切ることは出来そうになかった。


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