零さんが女を殺すセーターを着ている。 皆さんご存知の、白いタートルネックのアレだ。 「はい、あーん」 それだけでも既に瀕死の状態なのに、満面の笑顔で彼手作りのクリスマスケーキをあーんして食べさせようとしてくるのである。 「零さ……んぐっ」 「お味はどうかな」 「とっても美味しいです」 零さんがキラキラ輝いて見える。 零さんは天使?天使なの? なるほど、ここが天国か。 零さんの手作りのクリスマスケーキが食べられるというだけでも幸せなのに、今日一日零さんを独り占め出来るなんて、寿命分の幸運を使い果たしたとしか思えない。 零さんに強火のガチ恋勢にはわかってもらえると思う、いまのこの気持ち。 そもそも、自分が零さんの奥さんなのだという事実からしてもうヤバい。 たぶん私はとっくに死んでいて、あの世とこの世の狭間で幸せな夢を見ているのだと思う。 「夢じゃないよ。僕はここにいる」 勘の良い零さんには私の戸惑いなんてお見通しで、彼は私の手を取ると、薬指にはめられた指輪にキスを落として、それからその手をセーターの胸に押し当てた。 どくん、どくん、と規則正しい力強い鼓動が伝わってくる。 「まだ信じられない?」 「れ、零さん……」 「僕の可愛い奥さんは、どうしたらこれが現実だと信じてくれるのかな」 困っているような、それでいて面白がっているような口調だった。 小首を傾げる零さんも美しい。 「だ、だって……幸せ過ぎるから」 「信じられない?」 これでどうかな。 甘く囁いた零さんが私の唇に自分の唇を重ねた。 生クリーム味の、甘い甘いキス。 あまりのことに頭がくらくらする。 想像してみてほしい。 均整のとれた引き締まった身体にあの肌触りの良い白いセーターを着た零さんが、端正なお顔に甘い微笑みを浮かべて目の前に座っているのだ。 その零さんにクリスマスケーキをあーんして食べさせてもらって、キスまでされたいまの私の心情はいかばかりか、繰り返して言うが、零さんに強火のガチ恋勢にはわかってもらえると思う、いまのこの気持ち。 キャンドルの灯りに照らされた零さんのミルクチョコレート色の肌が美味しそうだ、とか。 本当に、なんて綺麗な人なんだろうと溜め息が出てしまう。 気がつくとケーキを完食していた。 「次は僕の番だね」 零さんが舌ぺろする。 凄絶に色っぽいから心臓に悪い。 ちょっと悪い人っぽい笑みは、バーボンの時のそれのようで、ドキッとした。 立ち上がって歩み寄ってきた零さんに軽々と抱き上げられる。 「今度は僕がご馳走を食べさせてもらうよ」 零さんの綺麗に整った顔がすぐ近くにある。 「じっくりたっぷり味わって食べてあげるから、これが現実なんだと心と身体で実感させてあげよう」 |