「苗字なまえと言います」 「降谷零だ。よろしく、なまえさん」 お互いに自己紹介を済ませてビュッフェの料理が並ぶテーブルへと移動した。 降谷が甲斐甲斐しく料理を小皿に取り分けてくれる。 「すみません、ありがとうございます」 「どういたしまして」 なまえに皿を渡した降谷は、ウェイターからドリンクを受け取ってなまえにグラスを差し出した。 「運命の出逢いに」 そう言って二人で乾杯する。 降谷ほどの美形だと、そんな気障な台詞さえもが様になってしまうのだから凄い。 「本当にそう思っていますか?」 「もちろん。君と今日出逢ったのは運命だと思っているよ」 「嬉しいです。私も降谷さんに出逢えて良かった。ここに来るまで誰とも上手く話せないんじゃないかとずっと不安だったから」 「君を放っておく男などいないさ。君のような女性と知り合えた僕こそ運が良かった」 「降谷さん……」 二人の間に親密な空気が流れる。 なまえは、本当にこれは運命の出逢いなのかもしれないと思い始めていた。 その時、降谷のスマホが鳴った。 「すまない。すぐに戻るから待っていてくれ」 「はい」 スマホを片手に降谷が足早に会場を出ていく。 その姿を見送ってから、なまえは料理の皿に手をつけた。 美味しい。 さすが街コンの中でもハイソな米花ホテルのディナービュッフェだけあって、どの料理も素晴らしく満足のいくものだった。 食べるのに夢中になっていたら、背後で誰かがフッと笑う声が聞こえて来た。 「すまない。笑ったりして悪かった。あまりにも美味そうに食べていたので、つい……な」 振り返ると、黒髪の男が立っていた。 その彫りの深い精悍な顔立ちと鍛え抜かれた立派な体躯、見事なグリーンアイからして、外国の血が混ざっているのは間違いない。 降谷とはまた違うタイプの美丈夫だ。 「俺は赤井秀一という。君の名前は?」 「苗字なまえです」 「なまえか。君に相応しい可憐な名だ」 と、そこへ何やら慌てた様子の降谷が急いで戻って来た。 「僕のパートナーに何かご用ですか」 さりげなくなまえを自分の後ろに隠しながら降谷が赤井に尋ねる。 「君の?それは失礼した。だが、大事なパートナーを一人にしていた君にも責任がある」 「電話で部下から急ぎの報告を受けていたんですよ」 降谷が自分の背に隠していたなまえを振り返った。 「一人にしてすまなかった。こんな男に絡まれて怖かっただろう」 「大丈夫です。お仕事の話なんだから仕方ないですよ」 「ありがとう。さあ、向こうに行こう」 「そう邪険にしなくてもいいじゃないか、降谷くん」 「いえ、僕達はこれで失礼します。後はごゆっくりどうぞ」 なまえの手を引いて離れていく降谷に赤井は軽く肩を竦めてみせた。 「フ……随分過保護だな」 赤井から充分距離を取ると、降谷は小さく息をついた。 「改めて申し込もう。僕と結婚を前提に付き合ってほしい」 「はい、喜んで。こちらこそよろしくお願いします」 「ありがとう。必ず幸せにすると誓うよ」 甘い微笑を浮かべた降谷が優しくなまえの頭を撫でる。 「それと、今後一切赤井秀一には近付かないでくれ。嫌な予感がする」 「ふふ、零さんったら心配性ですね」 だが、降谷の予感は的中していた。 その後、なまえに一目惚れした赤井が何かとちょっかいを出してくることになるのだが、まだ恋人同士になったばかりの二人は知る由もなかった。 降谷エンド |