──さて、どうするか。 眼前に立ちはだかる男達を前に、少年はさして困った風でもなく思索をめぐらせていた。 彼らの目的はいたってシンプルだ。 金。 出来れば現金、もしくは簡単に金に変えられる物。 彼らが行おうとしているのは、どの国においても珍しくはない至極単純明快な犯罪、つまりはカツアゲである。 「おいおい、ビビっちまって声も出ね〜かぁ?」 下卑た笑いをあげた男に同調するように、他のメンバーからも笑い声が漏れる。 相手がマフィア界を震撼させた脱獄囚だとも知らずに、どの顔も弱者をいたぶることへの欲求でギラついていた。 (やれやれ、面倒な……) 少年──六道骸は、内心溜め息をついて、冷めた眼差しで相手を値踏みした。 彼らはマフィアでも殺し屋でもない。単なるチンピラだ。 撃退するのは容易いことだった。殺すのも。 しかし、いま表立って騒ぎを起こすのはまずい。 何処にボンゴレの息のかかったものがいるかわからないのだ。 まだ日本に来た目的を果たしていない以上、作戦以外で『六道骸』として余計な騒ぎを起こすわけにはいかなかった。 「あっ──!」 背後から小さく息を飲む声が聞こえ、骸は振り返った。 逆光でよく見えないが、通路の向こうにいるのは少女のようだった。 驚いた様子で骸と男達を見ていた彼女は、直ぐに慌てて何処かへ走り去ってしまった。 当然だ。 進んで面倒事に巻き込まれたいと願う御人好しはそういない。 だが警察を呼ばれては厄介だ。 こうなれば、やはり能力(スキル)を使って、男達に幻覚を見せてやり過ごすのが一番だろう。 骸の右目の数字がぶれる。 それが六から一へと移り変わろうとした瞬間、誰かが走ってくる足音を耳が捉えた。 小柄な人影が側を通り過ぎて前に走り出る。 「下がって!」 ブシュウウゥゥ! 少女の手元から音を立てて白煙が吹き出し、男達が驚愕の叫びをあげた。 消火器だ。 もうもうたる白い煙に包まれ咳き込むチンピラに向かって、えい、とばかりに消火器を投げつけた少女は、骸の手を掴むと、 「今のうちに早く!」 そう言って走り出した。 |