昼になると、特訓という名のイジメは一先ず切り上げて、海の家で休憩することになった。
食堂を兼ねた休憩室の中は、簾で日差しを遮りながら潮風は素通しなので、冷房がなくても充分涼しい。
土間になっている地面よりも一段高くなった場所には畳が敷かれ、折りたたみ式の焦茶色の長机が置かれている。
昭和の香り漂う昔ながらの海の家だ。

「あらまあ、美人の奥さんと可愛いお子さんですねぇ」

麦茶とお好み焼きを持ってやって来た海の家の女将さんがビアンキとリボーンを見て、シャマルに向かって言った。
何も知らない彼女の目には、赤ん坊を膝に抱いているビアンキが母親で、彼女の隣に座るシャマルが父親に見えたのだろう。
まあ、勘違いするのも仕方がない。
調子に乗ったシャマルがヘラヘラ笑いながらビアンキの肩を抱き寄せた。

「どうよ、俺の嫁さん美人だろ〜〜?」

「誰が嫁よ!」

ビアンキはブショアァ!と効果音付きで毒々しい煙をあげるお好み焼きをシャマルの顔面にベシャッと押し付けた。

「ぎゃあああああああああ!!!!」

「懲りねー奴だな」

悲鳴をあげて畳の上を転げ回るシャマルをリボーンが冷めた目で見やる。
ツナと真奈は引きつった顔を見合わせた。

「それにしても、俺達以外の客がいねぇな。ガラガラじゃねーか」

「おい、獄寺…」

山本が窘めるが、女将さんは「いいんですよ」と笑った。

「若い人は皆あっちに行っちゃってねえ…」

あっちと言うのは、砂浜の反対側にある真新しい建物のことだ。
近年になって新設されたリゾート風のデザインのお洒落な海の家が立ち並んでいる。
ウッドデッキ上の白いガーデンテーブルセットには清潔なテーブルクロスが掛けられており、メニューも本格的な地中海料理やハワイアンばかりだ。
トップシーズンの盛夏以外でも、“海辺のレストラン”として通年営業出来るという強みがある。

「アルバイトも、向こうは応募が殺到してるみたいなのに、うちはさっぱりで…」

女将さんは溜め息をついた。

「よし。お前ら、ちょっと行って客をかき集めて来い。向こうの店より繁盛させてみせろ」

「お前、ほんっっと無茶ブリだな!!!」

綱吉が突っ込むが、もはや決定事項なのだった。

「イーピン、も」

「はひ、イーピンちゃんもお手伝いしてくれるんですか?」

イーピンはこくりと頷いた。

「イーピン、チャーハン、つくる!」

「そっか、イーピンちゃんのチャーハン美味しいもんね。きっと皆喜んで食べてくれるよ!」


京子の予想は的中した。

「ハイッ!」
「ヤーッ!」

カンフー映画のようなかけ声付きモーションでチャーハンを炒めるイーピンの姿に、周囲のギャラリーから歓声と拍手が巻き起こる。
しかも、そうして完成したチャーハンはプロ並みの味で、店の前には瞬く間に行列が出来ていった。

「凄いね、イーピンちゃん!」

「ハル達も負けてられないです。頑張りましょう、京子ちゃん!真奈ちゃん!」

「うん!」

「頑張ろう!」

水着にエプロンを着けた真奈は、おー!と腕を上げた。



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