五条さんに連れて来られたのは、全室完全離れ仕様の温泉宿だった。
何でも特別な結界が張られた呪術師のためだけの隠れ宿だそうで、非呪術師には知られていない秘湯らしい。
誰でも利用可能な露天風呂が敷地内に幾つかあるが、離れにはそれぞれ部屋付きの露天風呂があるのだそうだ。
五条さん曰く、

「このほうがえっちなことしやすいでしょ」

ということらしい。

「赤くなっちゃって、かーわいー」

「もう……からかわないで下さい」

頬をぷにぷにとつついて来る五条さんはいつになく機嫌がいい。やっぱり日頃多忙なだけあって、久々のお休みは嬉しいのだろう。

「それに、こんな高そうなところ、お金が」

「うん?僕が払うから問題ないよ?」

そう言う五条さんは既に浴衣に着替えて寛いでいる。慣れているなあと思いつつ、私も浴衣に着替え済みなのだけど。

「そんなに気になるなら、後で部屋付きの露天風呂に一緒に入ってよ。それでチャラってことで」

ご機嫌な様子で提案してくる五条さんに、タダより高いものはないってホントなんだなとしみじみ思いながら俯いた。

コンコンコンとノックの音が聞こえて、扉が外側から開かれる。

「お待たせ致しました。お食事をお持ちしました」

大きなお盆を携えて入って来た仲居さんがてきぱきと料理を並べていく。あっという間に机の上は豪華な料理で埋め尽くされていった。

「それでは、ごゆっくり……」

深々と一礼した仲居さんが立ち去る。
私は五条さんの湯呑みにお茶を注いだ。

「ありがとう。僕のことはいいから、なまえも食べな」

「はい、いただきます」

五条さんの向かい側に座り、箸を手に取る。
見るからに新鮮な山の幸がずらりと並んでいる。

「なまえ、あーん」

五条さんが蓮根の天ぷらを差し出して来たので、私は口を開けてそれを食べた。

「美味しいです」

「でしょ。なまえも僕に食べさせてよ」

私はカボチャの天ぷらを箸で取って五条さんに差し出した。

「五条さん、あーんして下さい」

「あーん。ん、美味いね」

結構な量があったはずだが、気が付くと二人ともデザート以外の料理を全部食べ終えていた。
お腹がいっぱいになった私の前で、五条さんは二人分のデザートを召し上がっている。甘いものは別腹なんだろうか。

「なまえ、膝枕して」

デザートを食べ終えた五条さんがごろりと横になり、私の太ももに頭を乗せた。
いつもはアイマスクに押し上げられて逆立っている白い髪は、いまは重力に従って下りている。
そのふわふわした髪を撫でてあげると、五条さんは満足そうに目を閉じた。バサバサと音がしそうな睫毛が目元に影を落としていた。
そのまますやすやと眠ってしまった五条さんを可愛いと思ったのは秘密にしておこう。



しばらくしてぱちりと青い目を開いた五条さんは、何を思ったのか、私を横抱きにして露天風呂に向かった。
そして、自分と私の浴衣を脱がせると、掛け湯もそこそこに、露天風呂の中に入っていった。もちろん、私を抱き上げたまま。
湯の中で胡座をかいた五条さんが、その脚の上に私を抱っこした状態で大きく息をついた。

「はー、いま最高に幸せ」

「私もです。連れて来て下さってありがとうございました」

「うん、また一緒に来ようね」

その時は家族が増えているかもしれないけど。
そう笑った五条さんの悪戯な手が有言実行とばかりに早速悪さを始めたので、私は温泉を楽しむどころではなくなってしまった。

本当に、また一緒に来られたら嬉しいな。

次第に深く、情熱的になっていく口付けと愛撫に翻弄されながらも、私は『次』に思いを馳せるのだった。




五条悟END


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