脱衣場から出てすぐにある洗い場でまずは身体を洗い、仕切りの向こう側へ。

「わあ……綺麗!」

露天風呂からは見事な桜の木々が一望出来た。
ライトアップされているせいで、闇の中に桜の花が浮かび上がって見える。
それに加えて、この温泉だ。
ちょうど良い温度でとても気持ちがいい。日頃の疲れがゆっくりと癒されていくようだった。

「なまえ?」

「傑くん」

入って来たのは傑くんだった。

「隣に行ってもいいかい?」

「うん、もちろん」

乳白色の湯を掻き分けて傑くんがやって来る。
隣に座った傑くんは、さすが鍛えてるだけあってイイ身体をしていた。
温泉だからか、いつものお団子ヘアじゃなくて初めて見るまとめ髪にしている。
下手をしたら女の私より色っぽいかもしれない。
傑くんが私から桜へと視線を移したので私も桜を見上げた。

「露天風呂でお花見なんて贅沢だね」

「そうだね」

「傑くんと一緒に見られて良かった」

「私も君と見られて嬉しいよ」

それから、私と傑くんはのんびりお湯に浸かりながら他愛のない話をした。
しばらく忙しかったから、こうして傑くんとゆっくりお話出来て嬉しい。

「なまえ」

傑くんに優しい声で呼ばれる。

「おいで」

傑くんのその言葉になんと返事をしたのか覚えていない。
気付いた時には既に浴衣を着ていて、傑くんに手を引かれて彼の部屋へ連れて行かれたあとだった。
その後のことはまるで熱に浮かされたように、どうにも記憶が曖昧だ。



はだけられた浴衣。

温泉で温まった素肌に這わせられた、大きな手のゴツゴツした感触。

幾度となく絶頂に達した身体を、容赦なく貪り尽くそうとするような巧みで淫らな腰の動き。

崩れたまとめ髪から流れ落ちた長い黒髪が肌をくすぐる感覚。



短い微睡みから目覚めた時には、もう後始末がされていて、私は傑くんの腕の中にいた。ぴたりとくっついた素肌の感触が心地好い。

「身体は大丈夫かい?」

甘やかすような優しい声に、まだぼんやりとしたまま頷く。
切れ長の瞳を細めて私を見つめている傑くんの艶やかな髪は自然に下ろされていて、白い枕の上に緩やかに広がっていた。
あまりの色香に、目に毒だと思った私は、視線をさまよわせながらこの淫靡で気だるい空気を何とかしようと話題を探した。

「温泉気持ち良かったね」

「私に抱かれるよりも?」

「傑くんの意地悪!」

傑くんが堪らずといった感じで笑い出す。
久しぶりに傑くんの笑い声を聞いた気がする。

「卒業したら、今度は二人で来よう」

「うん、約束だよ」



夏油傑END


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