「梨はお好きですか?」 「はい、大好きです」 「それは良かった。早速剥いて差し上げましょうね」 メスを取り出した赤屍さんは、フルーツが山盛りになった籠から梨を一つ手に取ると、するすると器用に皮を剥き始めた。 あっという間に白い梨の果肉があらわになる。 赤屍さんはそうして皮を剥かれた梨をさくりさくりとメスでカットしていった。 その一つにフォークを刺し、私の口元まで運んでくる。 「はい、あーん」 あーんと口を開けて梨を食べると、瑞々しい果肉から果汁が飛び出して口内を潤した。 ベッドの左脇のスタンドに吊り下げられているのは、輸血用の血液バッグだ。 前に病院で見たことがあるから間違いない。 そこから伸びたチューブは私の左腕へと続いていた。 恐らくチューブから繋がっている針が刺さっているだろう左腕は、幾重にも巻かれた包帯で固定されているため、動かせない。 朝起きたら既にこの状態だった。 何故、輸血なんてされているのか。 『何を』輸血されているのか。 真実を知るのが怖くて聞けないでいる。 赤屍さんが私の口元に梨を運び、それを食べる。 しばらくその行為が続いた。 梨が無くなるまで。 「いかがでしたか」 「とっても美味しかったです」 梨はとても美味しかった。 けれども、まだ肝心なことが聞けないままだ。 本当なら今頃は仕事に行くために支度をしている時間なのだが、どうも今日は仕事に行ける気がしない。 そうする内に何だか眠くなってきた。 「少し眠りますか?」 「えっと……」 「職場には私が連絡を入れてあるので心配は要りません。どうぞゆっくり休んで下さい。私の血が身体に馴染むまで時間がかかりますから」 あ、これって、やっぱりそういうことなんですね。 「おやすみなさい、なまえさん」 「おやすみなさい、赤屍さん」 これから私の身体は、私はどうなってしまうのだろうとか。 いきなりすぎませんか、とか。 職場に連絡って、休みますじゃなくて辞めます的な連絡でしょ、とか。 確認しなければならないことは山ほどあったが、私は考えることを放棄して目を閉じた。 おやすみのキスは甘い梨の味がした。 |