車窓から眺める街並みや行き交う人々はいかにも暑そうだけれど、車の中は冷房が効いていて快適だ。

多くの車が都心に向かって行くのに対して、私を乗せた赤屍さんの車は逆方向へ向かう車線を走っている。
その事実だけで何だかワクワクした。
皆がオフィスに働きに行く時間に、私達は自由を求めて当て所もない旅に出ようとしている。
最初こそ後ろめたい気持ちや罪悪感があったが、いまはふっ切れて、いっそ爽快な気分だった。


「何だか、何もかも嫌になっちゃった」

色々なものが積み重なった末に口をついて出た言葉だった。

「お仕事、行きたくないな」

ぽつりと呟いた私に、赤屍さんは優しく微笑んで言った。

「では、私と一緒に逃避行に出ましょうか」


「部長怒ってるだろうなあ」

途中のサービスエリアでソフトクリームを買って貰って食べながら、大嫌いな上司の顔を思い浮かべる。

「いまは楽しいことだけを考えていて下さい」

赤屍さんに頭を撫でられて、うんと頷いた。
ソフトクリームを食べ終わり、赤屍さんの腕に抱きつく。

「赤屍さん、大好き」

「私も愛していますよ」

換気のために窓を開ければ、むわっと蒸し暑い空気が車内に流れ込んできた。
強い陽射しにじりじりと肌を焼かれる感覚に、ああ、夏だなあと思う。

「どこに行きましょうか」

「海が見たいです!」

「良いですね。なるべく人の少ない所を探しましょう」

赤屍さんがハンドルをきって、サービスエリアの駐車場から出ていく。
駐車場はガラガラだった。

外は相変わらずのカンカン照り。
今日も暑い一日になりそうだ。

車は高速を降りて一般道を走っていく。

今頃みんな忙しく働いているのだろう。
ちくりと胸が痛んだのは一瞬だけ。

私はまだ海は見えないかと、窓の外に目をこらしていた。


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